【とっておきシネマ】フランス映画『シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢』
サウンドブランチ 鳥飼美紀です。
フランス政府指定の重要建造物に“シュヴァルの理想宮”という宮殿があるそうです。
それは、ジョゼフ=フェルディナン・シュヴァルという郵便配達員が33年の歳月をかけ、愛娘のために手作りした“おとぎの国の宮殿”。
今週は、たった一人で信じがたい壮大な作業を行った寡黙な父親と、その家族の実話を描いた作品『シュヴァルの理想宮』をご紹介しました。
19世紀末、フランス南東部の村オートリ―ヴ。
郵便配達員シュヴァルは、配達先で未亡人フィロメーヌと出会い、結婚する。
ふたりの間には娘アリスが誕生したが、寡黙で人付き合いの苦手なシュヴァルは、わが娘にどう接したらいいのか戸惑っていた。
ある日、配達の途中で石につまずいた彼は、その石の奇妙な形に心奪われ、石を積み上げて宮殿を作るという奇想天外な挑戦を思いつく。
それは同時に、不器用な彼なりの愛娘アリスへの愛情表現でもあった。
完成途中の宮殿を遊び場にして育っていくアリスとシュヴァルと妻の幸せな生活は続いて行くかに見えたが、過酷な運命が彼に襲い掛かる…。
木製の手押し車で石を拾い集め、積み上げること9万3000時間。
デザインは新聞や雑誌・絵葉書などを参考にし、幅26m、高さ10mに及ぶ建造物を、娘のために独学で完成させたシュヴァル。
彼は無口で頑固、人と接するよりも自然の中で鳥に囲まれている方が楽だという風変わりな人物でした。
31歳の時に郵便配達員となり、1日32㎞、60歳の定年まで22万2720㎞(地球5周分)の距離を歩いたそうです。
理想宮を作り始めたのは43歳、完成時は76歳になっていましたが、彼の生涯は愛する人たちとの別れが繰り返される非常に過酷なものでした。
実は、彼は一度目の結婚で第一子を亡くし、その後シリルという男の子をもうけていますが、のちに最初の妻にも先立たれています。
母を亡くし養子に出された息子シリルの、父親シュヴァルを慕う気持ちにも心打たれますが、やがて彼とも別れることになるのです。
シュヴァルを演じるジャック・ガンブランの、静かで頑なな演技が素晴らしい……。
地味な作品ですが、不器用な生き方しかできない人間の、気の遠くなるような愛情表現が胸に沁みる物語です。
監督:ニルス・タヴェルニエ
出演:ジャック・ガンブラン レティシア・カスタ ベルナール・ル・コク フロランス・トマサン
2018年 フランス 105分 配給:KADOKAWA
https://cheval-movie.com/
12月13日(金)から シネ・リーブル梅田 シネ・リーブル神戸で上映中