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【とっておきシネマ】向田邦子作『阿修羅のごとく』(2003年)

サウンドブランチ 鳥飼美紀です。みなさんお元気ですか?
緊急事態宣言が解除されて、映画館も営業再開されています。
もちろん感染対策はとられていますが、私たち観客もマスクの着用、体調の悪い時は出かけないなど注意が必要です。
一日も早く気軽に映画が見られる環境になることを願いながらも、日々警戒を怠らず過ごしていきたいですね。

さて、とっておきシネマのコーナーは、もう少し「お家でシネマ」を続けましょう。
今週は、向田邦子作『阿修羅のごとく』を選びました。
厳密にいうとこの作品は原作があったものではなく、脚本家向田邦子のテレビドラマを映画化したものです。
内容が実に面白い証拠にテレビドラマから映画化、そして書籍化され、さらに二度の舞台化もされています。

昭和54年の冬のこと。
竹沢家の四姉妹、綱子、巻子、滝子、咲子は、家族にとっての一大事について話し合うために集まる。
その一大事とは、年老いた父に愛人がいる、しかも子供まで…というショッキングな出来事だった。
娘たちは母親を傷つけないよう心を配るが…ある日、新聞の相談欄に竹沢家と同じ状況が掲載される。
姉妹の誰かが投稿したのではないかと、それぞれが疑心暗鬼になるが…。
さらに、彼女たちもそれぞれ問題を抱えていることが徐々に明らかになってくる。
未亡人の長女は不倫中、次女は夫の浮気を疑い、三女は恋愛もせず心が硬直し、四女はボクサーと同棲…。
さて、竹沢家の四姉妹が抱える問題はどうなっていくのか、また父母の関係は平穏に続くのか。

「阿修羅」というのはインドにおける悪魔の通称だそうです。
我が家の本棚には、シナリオ版と小説版それぞれの「阿修羅のごとく」がありました。
シナリオ版の冒頭に、阿修羅について書かれています。

「内には猜疑心が強く、日常争いを好み、互いに事実を曲げ、また偽って他人の悪口を言いあう」

文字にすると恐ろしいですが、生々しく、いかにも人間的と思えば興味深いものです。
一見平凡な中流家庭の家族が、それぞれ胸の奥に「阿修羅」を隠して暮らしています。
それを向田流に、時にコミカルに、時に官能的に描き出していて、巧みです。
また選び抜かれたキャストたちが、同じく巧みな演技で作品をさらに磨き上げていきます。

口に食べ物を入れてもぐもぐ言いながら電話に出る・・・よくあることですが、これがこの作品のポイント!
相手を勘違いして、取り返しのつかないことを話してしまったり、秘密を打ち明けたり…。
向田さんは、こういう「あるある」の名人でしたね。

作:向田邦子「阿修羅のごとく」文春文庫
監督:森田芳光
出演:大竹しのぶ 黒木瞳、深津絵里、深田恭子、小林薫、仲代達矢、八千草薫、中村獅童

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