毎週金曜日夜9時からおおくりしている最新映画情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週のとっておきシネマは、2015年に出版されたある男性の「手記」を映画化した作品です。
手記はアメリカ政府による検閲で多くが黒く塗りつぶされ、しかも男性はその時、キューバに設置されたグアンタナモ米軍基地に収容されていたのです。
またたく間にアメリカで大ベストセラーを記録し、その後世界20か国で刊行された衝撃の実話なのです。
【STORY】
2005年のアメリカ。
人権派弁護士ナンシー・ホランダーは、キューバのグアンタナモ米軍基地に拘束された男の弁護をすることになる。
男の名はモハメドゥ・スラヒ、2001 年にアフリカのモーリタニアから、米同時多発テロ事件の首謀者の一人として連行されたが、裁判は一度も開かれていない。
ナンシーは「不当な拘禁」だと訴えることにし、通訳兼アシスタントの若手弁護士テリー・ダンカンとペアを組む。
グアンタナモを訪れたふたりは、モハメドゥに証言として手記を書くよう説得する。
帰国したナンシーとテリーは、一通また一通と届くモハメドゥの手記の予測不能な展開に息をのむ。
同時に、彼のユーモアと人間味に溢れた人柄にも惹かれていく。
そんな中、政府に請求していた軍による調査資料がようやく届くが、中身はほとんど真っ黒に塗りつぶされていた。
同じころ、大統領命令が下り政府が9.11の死刑第 1 号にと望むモハメドゥの起訴をスチュアート・カウチ中佐が担当することになる。
スチュアートは、ハイジャックされた機の副操縦士だった親友の無念を晴らそうと意気込む。
しかし、なぜかスチュアート側にも、政府からは半端な報告書しか与えられない。
報告書に同期生の名前を見つけたスチュアート中佐は、彼に相談を持ち掛けるが、「機密だ」と一蹴。
最後に明かされる衝撃の全貌。
そして、証言台でモハメドゥは何を語るのか。
【REVIEW】
2001年に起きたアメリカ同時多発テロの首謀者の一人として、不当に拘束された男性がアメリカを訴える。
舞台となるグアンタナモ収容所とは、アメリカが同時多発テロ以降にアルカイダ幹部やテロリストを収容するためにキューバのグアンタナモ米軍基地内に設けた施設。
司法手続きなしに厳しい尋問や拷問、長期拘禁を強いられているという実態が明らかとなり、国際社会や人権団体からの非難が相次いだ。
2009 年オバマ政権が閉鎖を表明したが難航し、現在も実現には至っていないという。
弁護士のナンシーはジョディ・フォスター、対するスチュアート中佐をベネディクト・カンバーバッチが演じている。
私は、ジョディ・フォスターを76年の「タクシー・ドライバー」で初めて知ったと記憶している。
当時から、甘さの全くない凛とした容姿と演技がジョディ・フォスターの個性だと感じ、好きな女優の一人だ。
彼女は、88年の「告発のゆくえ」、そして91年の「羊たちの沈黙」で2度のアカデミー賞主演女優賞を受賞している。
この作品でもゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞し、彼女の出演作なら間違いない~と、私のように思い込んでいる人も少なくないのでは?
若い頃のイメージのまま歳を重ねていることに感動したし、知的な役はジョディにピッタリハマる。
そして、主人公モハメドゥ役はフランス生まれのタハール・ラヒム。
世界の名匠からオファーの絶えない国際派俳優で、カンヌ国際映画祭で審査員も務めた。
彼が演じるモハメドゥは、モーリタニアで遊牧民の家系に生まれ、奨学金でドイツの大学に留学後エンジニアとなった。
モーリタニアに帰国した翌年に同時多発テロが発生し、彼はテロ首謀者の一人として身柄を拘束されグアンタナモ収容所に送られ、拘禁は14年におよんだ。
映画の中では、ひどい拷問のシーンが描かれるが、拷問する側のアメリカ兵の心の傷や疲弊も同時に描かれている。
だからこそ、ラストのモハメドゥの証言に心打たれる。
国家の闇を見せつけられる恐怖と、人間の寛容な心に感動させられる後味の良さ……複雑な味わいが残る作品だ。
監督:ケヴィン・マクドナルド
原作:モハメドゥ・ウルド・スラヒ「モーリタニアン 黒塗りの記録」(河出文庫)
出演:ジョディ・フォスター、ベネディクト・カンバーバッチ、タハール・ラヒム、シャイリーン・ウッドリー、ザッカリー・リーヴァイ
配給・宣伝:キノフィルムズ
2021年 /イギリス/英語・アラビア語・フランス語/ドルビーデジタル/カラー/スコープ/
原題:THE MAURITANIAN/字幕翻訳:櫻田美樹
提供:木下グループ
https://kuronuri-movie.com/
10月29日(金)からTOHOシネマズ梅田 TOHOシネマズ伊丹・西宮OS シネ・リーブル神戸などで公開