金曜の夜9時からおおくりしている、最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週は、ダイナミックなダンスシーンに圧倒される、とても魅力的な作品『ダンサー イン Paris』をご紹介しました。
怪我で、二度と踊れないかもしれないと言われたバレエダンサーが、未知なる人々やバレエとは違うダンスに出会い、新たな人生の扉を開く物語です。
監督は、思春期の頃からのバレエ・ダンスファンだというセドリック・クラピッシュ。
主演は、パリ・オペラ座バレエの現役ダンサー、マリオン・バルボーです。
【STORY】
パリ・オペラ座バレエで、エトワールをめざすエリーズ。
だが、夢の実現を目前にしながら、恋人の裏切りを目撃して心乱れ、ステージで失敗し足首を痛めてしまう。
医師から踊れなくなる可能性を告げられたエリーズは、一晩で恋も仕事も失って呆然とする。
ひたすらバレエ一筋の日々を送ってきたが、完治しなければ新しい生き方を探すしかない。
そんなエリーズに、ブルターニュのレジデンスで、料理係のアシスタントを務める仕事が舞い込む。
そこで、未知なる人々や今を時めく注目のダンスカンパニーと出会い、踊る喜びと新たな自分を発見していく——。
【REVIEW】
冒頭の15分間は、パリ・オペラ座でのバレエ公演の緊張感とともに、素晴らしいパフォーマンスが描かれる。
うっとりと見とれているうちに、主人公エリーズの心と身体を傷つけるアクシデントの一部始終を観客は目の当たりにすることになる。
ちなみにエリーズがめざしている「エトワール」とはフランス語で「星」を意味し、オペラ座バレエ団で最高位のスターダンサーに与えられる称号のことである。
そのエトワールを目前にして、主人公のエリーズは大きな挫折を味わうのだ。
ひとつの道を突き進んできた主人公が、挫折を経験し、その後に新しい人生を見つける物語はこれまでもたくさんあった。
この作品も、もちろん「人生は一つの道だけではない」ことを教えてくれるが、それ以上に観客を虜にするのが、圧巻のダンスシーンだ。
主人公のエリーズを、パリ・オペラ座のバレリーナで、なおかつコンテンポラリーダンスもこなすマリオン・バルボーが演じる。
また、彼女が新しい自分を見つけることになるコンテンポラリー・カンパニーのリーダーに、ホフェッシュ・シェクターが本人役で出演し、振付・音楽も担当している。
さらに、フランスを代表する若手ダンサーのメディ・バキも本人役で出演。
この一流ダンサーたちが踊るシーンが大きな見どころで、バレエは優雅の極み、コンテンポラリーはエネルギッシュという、対照的な興奮を与えてくれる。
ダンスシーンだけではなく、心に響いた言葉もある。
それは、エリーズの亡き母が遺した「人生の全てを味わって」という言葉だ。
何もない人生なんてあり得ない。
楽しいこと、苦しいこと、失恋や挫折、新しい出会い、……自分が経験すること全てをひっくるめて味わってこそ、中身の濃い人生といえるのではないか?
夢がある、目標がある、生き甲斐がある……それが何であろうと、どんな小さな事であろうと、人生を豊かにしてくれるはず。
そう信じて生きていきたいと思わせてくれる作品。ぜひ、劇場の大きなスクリーンで観ていただきたい。
監督:セドリック・クラピッシュ
出演:マリオン・バルボー ホフェッシュ・シェクター ドゥニ・ポダリデス ミュリエル・ロバン ピオ・マルマイ フランソワ・シヴィル スエリア・ヤクーブ メディ・バキ
2022年製作/118分/フランス・ベルギー/配給:アルバトロス・フィルム、セテラ・インターナショナル
https://www.dancerinparis.com/
9月15日(金)から全国公開 関西では、アップリンク京都 シネ・リーブル梅田 シネ・リーブル神戸など。