毎月第1木曜日は「水谷幸志のジャズの肖像画よもやま話」を配信します。
元々はハニーFMのフリーペーパー「HONEY」vol.12〜32に掲載されていた水谷さんのコラムでして、
今回ハニーFMがwebラジオに移行するにあたって新配信番組がスタートしました!
コラムでは書ききれなかったエピソードや時代背景などをゆったりと振り返りながらお送りします。
当時のコラムと合わせてお楽しみください。
「HONEY」vol.12
私が、エヴァンスのアルバムを初めて手にしたのは、確か「EXPLORATIONS」
リバーサイド四部作の一枚で、何れの作品もジャケットが素晴らしい。少し紹介すると先ずは、トラッドなスーツと眼鏡で決めた「PORTRAIT IN JAZZ」次は「WALTZ FOR DEBBY」そのジャケット裏面のエヴァンス。指を焦がしそうな短い煙草と長い指、思案げな表情を捉えたショットが素敵だ。でも私は、風にゆれるカーテンと白のシャツを無造作に着た「EXPLORATIONS」のエヴァンスに、何故か惹きつけられる。リリカルとか、リリシズムとか言われるエヴァンスだが、彼の本質は、ずばりハード・ボイルドな人。エヴァンスが弾くタッチは決して甘くなくドライ。耳を傾ければ、その響きは、深く、重たい。アルバム収録の“イスラエル”やマイルスの“ナーディス”などを聴けば、その研ぎ澄まされた深い音色に、少しずつ身体が沈み込んでいく。
晩年のエヴァンスは、ドラッグに蝕まれた身体の治療を拒み、苦痛から逃げるかのように鍵盤に向かい、自から命を絶つように、ゆっくりと、息をひきとったと伝えられる。まさに、彼のハード・ボイルドな生き方が示されている。
エヴァンスの150枚を超えるアルバムの中から、他に心惹かれる一枚を挙げると「GREEN DOLPHIN STREET」が浮かぶ。メンバーはビル・エヴァンス(p)にポール・チェンバース(b)とフィリー・ジョー・ジョーンズ(ds)のハードバピッシュな編成。しかし、このアルバムは急遽セットされたセッション故か、完全主義者のエヴァンスは仕上がりに満足せず、長くその作品を封印する。私たちが、その作品を目にするには20年余の歳月を費やすことに。でも待った甲斐があった!日本盤「GREEN DOLPHIN STREET」として、しかも写真家の阿部克自氏による秀抜なジャケットで手にすることになる。
ジャズの黄金期を駆け抜けた彼らは、きっと、今も何処かで夢をむさぼっているに違いない。ジャズと言う不思議な魅力を持つ音楽から、私が目を醒まさないのと同じように。
ハニーFMポッドキャストで配信しています。(再生ボタン▶を押すと番組が始まります)