毎週金曜日に配信、「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今回は、エルヴィス・プレスリーと恋に落ちた少女プリシラがたどる魅惑と波乱の日々を、プリシラの視点から描いた映画『プリシラ』をご紹介。エルヴィスの元妻による回想録「私のエルヴィス」をもとに、ソフィア・コッポラ監督がスタイリッシュに、美しく描いた作品です。
~鳥飼美紀のシネマエッセイ~
毎日お風呂から上がると、リビングでコカ・コーラをDURALEXの小さなグラスに1杯飲むことが、ここ1~2年習慣になっている。キュッと飲み干すのではなく、映画を観ながら、あるいは原稿を書きながらチビチビ喉を潤す。健康意識の高い系女子からは「やめなさい」と強く諫められるが、やめられない。甘みはあるものの喉に刺激的で爽快、まさに「スカッと爽やか、コカ・コーラ」なのだ。
はじめてコーラを飲んだ日は思い出せないが、おそらく中学生の頃だったと思う。同級生の男子たちが瓶入りコーラを一気飲みする競争も流行って、気が付けば自分自身もコーラが大好きになっていた。若い頃はカロリーを意識して遠ざかっていた時期もあるけれど、ご贔屓バンドのライブツアーに地方参戦し、ひと汗かいた後にホテルに戻って水分補給となると、やはりキュッとした炭酸系が欲しくなる。ある時、一緒にライブで盛り上がった友人が何のためらいもなくコーラを買うのを見て、私も開き直ってコーラを手に取った。渇いた身体に喉越しキュッとなるコーラはやはり最高だった。それからは何の罪悪感もなく、キュッとしたい時にはコーラを飲む。
1959年、西ドイツにあるアメリカ空軍基地。瓶入りのコカ・コーラにストローを挿して、カフェのカウンターでノートを広げて勉強する14歳のプリシラ。彼女は軍人である父親の転属でアメリカからドイツにやって来てまだ間もない。友人もできず退屈な日々を送っていたプリシラに「エルヴィスは好き?」と、ある人物が声をかける。「もちろん……。嫌いな人がいる?」と答えるプリシラ。その瞬間から彼女の運命が大きく動き出す。翌日の夜、プリシラはエルヴィスに出会い、生まれて初めての恋に落ちる。そんなことが現実にあるのか……と、こちらの胸まで高鳴る。
一昨年公開された、エルヴィスの人生と音楽を描いた映画『エルヴィス』では、彼のステージパフォーマンスがたっぷり描かれていた。42歳と言う若さで亡くなったエルヴィスをあまり知らなかった私は、彼のいた熱狂の時代にいきなり放り込まれた感覚で「この映画はファンタジーだ!」と感じ興奮したものだ。一方、今回の『プリシラ』では、ステージシーンはほぼ無い。主人公は妻のプリシラで、結婚生活のほとんどをグレースランドというエルヴィスの豪華な邸宅で、夫の帰りを待つだけの日々を過ごすからだ。夫の不在、夫と数々の女性との噂にプリシラは孤独を抱え、ついにある決断をする。出会ってから10年というプリシラの夢のような恋は、これもまた私には「ファンタジー」に思える。
14歳のプリシラは、世界が憧れるスーパースターのエルヴィス・プレスリーと出会い、恋に落ちる。彼の特別になるという夢のような現実……。やがて彼女は両親の反対を押し切って、大邸宅グレースランドで一緒に暮らし始める。魅惑的な別世界に足を踏み入れたプリシラにとって、彼の色に染まり、そばにいることが彼女のすべてだったが……。
監督・脚本:ソフィア・コッポラ
出演:ケイリー・スピーニー ジェイコブ・エロルディ ダグマーラ・ドミンスク アリ・コーエン ティム・ポスト オリヴィア・バレット
2023年/アメリカ、イタリア/113分/PG:12/配給:ギャガ
© 2023 The Apartment S.r.l. All Rights Reserved
https://gaga.ne.jp/priscilla/
2024年4月12日(金)TOHOシネマズ シャンテ ほか全国ロードショー
映画「プリシラ」オリジナルサウンドトラック
【とっておきシネマ】
ハニーFMポッドキャストで配信しています。(再生ボタン▶を押すと番組が始まります)