今週は、18世紀のイタリア・ヴェネツィアを舞台に、孤独に生きる一人の少女がヴィヴァルディの指導によってヴァイオリンの才能を開花させ成長していく姿と、己の才能が評価されることを渇望するヴィヴァルディの内なる野望を描く、『ヴィヴァルディと私』をという作品をご紹介します。音楽に情熱を捧げ、未来の希望を切り開こうとする師と愛弟子の物語。ヴィヴァルディの楽曲とともにお楽しみいただけるドラマティックな作品です。

2025 INDIGO FILM, WARNER BROS. ENTERTAINMENT ITALIA, MOANA FILMS
シネマエッセイ
高校時代の仲良し4人グループにO君という文学男子がいた。ほんの少しだけ不真面目だった私たちは、放課後に喫茶店でコーヒーやミックスジュースを飲みながら「面白い本」について何時間も語り合った。他のクラスメートたちが受験勉強に励んでいる間もそんな調子だったから、揃って4人とも大学受験に失敗したのは当然の結果である。O君は2浪した後、第1希望だった東京の大学をついに諦めて京都の大学に進学し、それから10年ほどはグループで会うことも少なくなっていた。ある日突然、O君が私の勤務先を訪ねて来て一緒にランチをすることになった。その時のことを今でもはっきり憶えている。日替わりランチを食べながら、O君は昔のように「面白い本」を教えてくれた。以前は大江健三郎や小林秀雄など、私の頭ではさっぱり理解できない難しい本を教えてくれていたが、その時に彼の口から出た作家は“塩野七生”だった。初めて聞く名前。彼女の『海の都の物語』が「めちゃくちゃ面白いから読んでみたらどうか、いや絶対に読め!」と言う。またまた難解なものを勧められたのだろうなと思いつつ、とりあえず購入して読んでみた。めちゃくちゃ面白かった……。ヴェネツィア共和国が、1000年もの間、他国の侵略に遭わずに自由と独立を守ることができたのは貿易と外交と軍事に力を入れていたからだというような内容で、中でも私が大いに納得したのは巧みな情報収集能力だったと記憶している。小説を読み、とても賢い国だったと知り、今でも印象的な物語の一つとして『海の都の物語』は心に残っている。いつかはヴェネツィアでゴンドラに乗ってみたいという憧れも湧いたが、今のところディズニーシーのゴンドラでお茶を濁している。その後私は塩野七生の壮大な歴史小説に惹かれ、『ローマ人の物語』をはじめとする数々の著作を読み漁った。O君が『海の都の物語』を教えてくれなかったら、おそらく知り得なかった作家だ。そのO君は、8年前に天国へと旅立った。私に何も言わずに……。
さて、映画『ヴィヴァルディと私』は、18世紀のヴェネツィアが舞台。ヴィヴァルディと孤児チェチリアという師弟の、音楽への情熱がほとばしるドラマティックな物語である。
ヴェネツィアでは当時から日本で言うところの“赤ちゃんポスト”というシステムがあったこと、ヴィヴァルディが幼少期からヴァイオリンを習得していたこと、25歳で司祭になったこと、ピエタ院のヴァイオリン教師として少女たちに音楽を教えていたこと、その演奏は世界最高のオーケストラと賞されるほどのレベルだったことなど、知らないことばかりで、小さな驚きがたくさんあった。それにしても、音楽を諦めないために主人公チェチリアの選んだ道は……。

2025 INDIGO FILM, WARNER BROS. ENTERTAINMENT ITALIA, MOANA FILMS

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ストーリー
1716年、ヴェネツィアのピエタ院。赤ちゃんポストに置き去りにされたチェチリアは、母の姿も愛情も知らずにこの院で育つ。外の世界で暮らすには、母親が迎えに来るか、貴族に見いだされ結婚するかしかなかった。結婚も貴族から院への寄付が前提で、持ちつもたれつの関係であった。そんな中、ピエタ院にアントニオ・ヴィヴァルディがヴァイオリン教師として赴任すると、卓越したヴァイオリンの技術を持つチェチリアを見出し、第一ヴァイオリンのリーダーに任命する。ヴィヴァルディからの厳しい練習に耐え、ヴァイオリンの腕があがっていくチェチリア。いつしか二人は心を通わせるようになる。そんな折、ピエタ院が決めたチェチリアの結婚相手である将校がトルコとの戦争から戻り、結婚が迫ったある日、事件が起こる……。

2025 INDIGO FILM, WARNER BROS. ENTERTAINMENT ITALIA, MOANA FILMS

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監督・脚本:ダミアーノ・ミキ エレット
出演:テクラ・インソリア ミケーレ・リオンディーノ
2025年 /イタリア・フランス/110分
配給:彩プロ https://vivaldi.ayapro.ne.jp/
5/22(金)より、全国順次ロードショー
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