毎週金曜日夜9時からおおくりしている、最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週は、上白石萌歌さん主演の『子供はわかってあげない』という作品をご紹介しました。
とてもナチュラルな高校生の、いささかナチュラルではない”ひと夏の物語”です。
【STORY】
主人公は高校2年生の水泳部女子・朔田美波。
ある日、プール掃除をしていると、屋上で大きな紙に何かを書いている男子を発見。
気になった美波が屋上に上がってみると、その男子は美波の大好きなテレビアニメの主人公の絵を描いていた。
男子は書道部のもじくん。それが美波ともじくんの運命の出会い。
アニメオタクのふたりは一瞬で意気投合し、友だちとして急速に距離を縮めていく。
代々由緒ある書道家だというもじくんの家に遊びに行った美波は、居間で見覚えのあるお札を見つける。
それは昨年の美波の誕生日に、彼女が幼い頃に離婚して生き別れた実の父親が送ってきたお札と同じものだった。
それを手掛かりに、美波は探偵だというもじくんのお兄さんに“実の父親探し”を依頼するのだが……。
【REVIEW】
冒頭、大好きなアニメのエンディングに合わせて、リビングで父親と仲よく踊る美波。
そばでは、母親と歳の離れた弟がじゃれ合っている~というほのぼの明るい家族がたっぷりと描かれる。
しかし、その父親は本当の父親ではなく母の再婚相手であり、弟は異父弟ということを、少し後のシーンで美波が屈託なく口にする。
朔田家はごく普通の家庭で、美波は当たり前に父親に甘え、弟を可愛がり、もちろん母親のことも大好き。
でも、彼女の心の中には消すことのできない実の父親がほんの少し……いる。
ラスト近く、そのことについて母親と話すシーンは美波を心から“いじらしい”と思う瞬間だ。
原作は、田島列島さんの同名タイトルのコミック。
軽やかで味わい深く、大人の気づきが多いと幅広い層に熱く支持されている。
田島さんは、日本人が好きなものを書こうと思って、恋愛、家族、カルト宗教、探偵、お金――全部を入れてみた……とか。
それがごちゃごちゃにならず、全部ひっくるめた女子高生の宝箱のようなひと夏の出来事となっている。
監督は、『南極料理人』『横道世之介』などを手がけた沖田修一監督。
ユーモアあふれる、あたたかい人間ドラマを描いてきた沖田監督の初めての漫画原作の映画化だという。
大人の事情をわかっているつもりが、本心ではわかっていない……そんな揺れる10代の心を、ナチュラルに描いている。
主演の上白石萌歌さんは撮影当時19歳で、とても自然な女子高生を演じているし、そのほかのキャストもそれぞれ印象に残る。
そして、カメラワークがユニークなことも付け加えておきたい。
水泳部の美波が泳ぐシーンを、水中と水上のはざま(?)からカメラが映す。
背泳(美波の競技)のスタートシーンは美波の視線で映し、まるで自分が泳いでいるみたいだ。
そして最初から最後まで、先を急がないたっぷりとしたシーン展開。
カメラの長回しがまったく退屈じゃないのは何故だろう?
それはきっと、人物のキャラクターや台詞・演技に嘘や誇張がないから。
笑えるシーンもふんだんにあって、清々しいこの青春映画を夏の終わりにいかがでしょう?
なっ!(これは水泳部の顧問の先生の口癖)
原作:田島列島『子供はわかってあげない』(講談社モーニング KC 刊)
監督:沖田修一
出演:上白石萌歌 細田佳央太 千葉雄大 古舘寛治 / 斉藤由貴 / 豊川悦司
2020年 日本 138分 配給:日活
https://agenai-movie.jp/
8月20日(金)~テアトル梅田 シネ・リーブル神戸などで公開