金曜の夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週ご紹介した映画は、日本映画『そばかす』です。
第 94 回アカデミー賞で国際⻑編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』(濱⼝⻯介監督)で、寡黙な女性ドライバーを演じた三浦透子さんが主演。
安易なハッピーエンドではないけれど、とても後味が良く「みんな違って、みんないい」という言葉をそのまま主人公に贈りたくなる作品でしたよ。
【STORY】
主人公・蘇畑佳純(そばた・かすみ)、30歳。
チェリストになる夢を諦めて実家にもどって数年が過ぎた。
家族は、救急救命士だが鬱気味で休職中の父、佳純に恋人がいないことを嘆く母、結婚はしているがしょっちゅう実家にいる妊娠中の妹。
そして思ったことをなんでも口にして、妹と口喧嘩が絶えないバツ3の祖母。
そんな家族に囲まれ、佳純はコールセンターで働きながら単調な毎日を過ごしている。
実は、佳純は異性であれ同性であれ、他人と恋愛したいという気持ちが湧かないのだった。
だからって寂しくないし、ひとりでも十分幸せなのに、周りはそれを信じてくれない。
ある日、業を煮やした母が勝手にセッティングしたお見合いに連れて行かれる……。
【REVIEW】
主人公・佳純を演じるのは三浦透子。
1996 年⽣まれで、2002 年「なっちゃん」の CM で子役デビュー。
2015年から映画出演はしているが、最も注目を浴びたのが第 94 回アカデミー賞国際⻑編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』(21/濱⼝⻯介監督)である。
主人公の車を運転する寡黙な女性ドライバー役を印象的に演じた。
その後は、連続テレビ⼩説(朝ドラ)「カムカムエヴリバディ」(22)、NHK ⼤河ドラマ「鎌倉殿の 13⼈」(22)にも出演。
また歌⼿としても活動しており、映画『天気の⼦』(19/新海誠監督)では、主題歌を担当したRADWIMPSにボーカリストとして参加。
今回の『そばかす』でも、主題歌「風になれ」を塩塚モエカ(ロックバンド羊文学のボーカル&ギター)に三浦透子自身が作詞作曲をオファーし、歌唱している。
「恋愛をしたことがない、そういう感情もない。だけど楽しく生きていける―それが私だと思っていた」という主人公の気持ちは、理解できるし、尊重したい。
しかし、主人公の母親は「とにかく結婚を……」と、無闇やたらと勧めるのだ。
そのことに、主人公と共にとても違和感を覚える。
〈結婚〉って、無理にするものなのだろうか~?
そんな恋愛しない佳純と、うつ気味の父親はどこか共鳴し合う部分がある。
父親も若い頃に音楽を志したことがあり、佳純も実は音大を卒業してチェロで生きて行こうというつもりではあったが、現在は断念してコールセンターで働いているのだった。
娘の気持ちを大切にする穏やかで繊細な父親役の三宅弘城の演技が、これまで彼が演じてきた役柄とはガラッと変わっていて、心を打たれるものがあった。
そして前田敦子演じる、中学時代の同級生で元AV女優の世永真帆の存在が佳純に大きな勇気を与える。
急に佳純に接近してきた真帆に、(裏に何かある? 騙される? 裏切られる?)と、観ている方は警戒するかもしれないが、さてどうなる?
佳純は友人の紹介で保育園に転職し、そこで自分の思いを伝えるチャンスが訪れるが、やはりすんなりとは理解してもらえない。
しかし、だからといって声を大にして社会に訴えたり、何かの運動に参加したりはしない。
すべての人に自分自身を理解してもらえるなんて、誰にとってもあり得ないことなのだ。
ただ、ラストに出てくる人物に佳純は救われる。
自分と同じような人間がいるんだ~という明るい気持ちは、佳純だけではなく観客の心にも広がり、佳純と一緒に駆け出したくなるのではないだろうか。
蘇畑佳純(そばた・かすみ)……だから、そばかす!
監督:⽟⽥真也
出演:三浦透子 前⽥敦⼦ 伊藤万理華 伊島空 前原滉 前原瑞樹 浅野千鶴 北村匠海(友情出演) ⽥島令⼦ 坂井真紀 三宅弘城
2022 年/⽇本/カラー/アメリカンビスタ/5.1ch /104 分/配給:ラビットハウス
https://notheroinemovies.com/sobakasu/
12月23日(金)~シネ・リーブル梅田 なんばパークスシネマ アップリンク京都 kino cinéma神戸国際、他で公開