毎週金曜日に配信、最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週は寒い日が続きましたが、体調を崩されていませんか?
さて今回のとっておきの1本は、5月17日公開の日本映画『ミッシング』です。
幼い娘が失踪し、出口のない暗闇に突き落とされた家族の物語。母親役の石原さとみさんの尋常でない熱量に圧倒されます。
~鳥飼美紀のシネマエッセイ~
「折り合いをつける」とはどういうことだろう。忘れるということなのだろうか? 諦めるということなのだろうか? たとえば、幼い娘が突然いなくなり、生きているのかどうかさえわからない……そんな耐えられない状況に放り込まれた母親には、どうやって折り合いをつけたらいいのかなんてわからない。いやそれ以前に、折り合いをつけるなんてことをしてはいけないだろう。やれること以上のことをやって、娘が戻ってくる日を永遠に待ち続けるしかない。娘は「lost(失われた)」ではなく「missing(行方がわからない)」なのだから。
日本映画『ミッシング』の吉田恵輔監督は、3年前にも、折り合いのつけられない父親を主人公にした衝撃作『空白』を世に出している。この父親は娘を亡くしたけれど、周囲を巻き込む凄まじい葛藤の末に折り合いをつけた……と私は理解した。その『空白』から繋がったのが『ミッシング』の構想だという。どちらの作品も、今どきのメディアとSNSという世間に翻弄される主人公が痛ましい。監督はインタビューで「人を壊すのも人を救うのも人。人とのつながりをもう少し大事にしたい」と語っているが、まさにそれは『ミッシング』のラストに見事に描かれている。めでたし、めでたしという訳にはいかないが、主人公と同じように希望という光を探し求める人とのつながりによって、主人公は心を取り戻していく。
主演の石原さとみさんは、6年前に吉田監督に「あなたの作品に出たい」と直談判したそうだ。念願叶って得た母親役。自分が崩壊しそうなくらい苦しかったけれど、今でも泣けるほど幸せだと語っている。試写を観終わっての帰り道、同じ試写を観ていた劇作家のOさんと言葉を交わした。2人の口からほぼ同時に出た第一声は「石原さとみ、凄かったですね」だった……。
【ストーリー】
とある街で起きた幼女の失踪事件。あらゆる手を尽くすも、見つからないまま3ヶ月が過ぎていた。娘・美羽の帰りを待ち続けるも少しずつ世間の関心が薄れていくことに焦る母・沙織里は、夫・豊との温度差から、夫婦喧嘩が絶えない。唯一取材を続けてくれる地元テレビ局の記者・砂田を頼る日々だった。そんな中、娘の失踪時に沙織里が推しのアイドルのライブに足を運んでいたことが知られると、ネット上で“育児放棄の母”と誹謗中傷の標的となってしまう。世の中に溢れる欺瞞や好奇の目に晒され続けたことで沙織里の言動は次第に過剰になり、いつしかメディアが求める“悲劇の母”を演じてしまうほど、心を失くしていく。
一方、砂田には局上層部の意向で視聴率獲得の為に、沙織里や、沙織里の弟・圭吾に対する世間の関心を煽るような取材の指示が下ってしまう……。
監督・脚本:吉田恵輔
出演:石原さとみ 青木崇高 森優作 有田麗未 / 中村倫也
2024年製作/119分/G/日本/配給:ワーナー・ブラザース映画
5月17日(金)全国公開
https://wwws.warnerbros.co.jp/missing/
【とっておきシネマ】
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