今週は、米澤穂信さんの直木賞受賞作で本木雅弘さん主演の『黒牢城』をご紹介しましょう。戦国時代を描く時代劇でありながら、本格的なミステリでもあり、国内4大ミステリランキング全てで1位を獲得した傑作です。現在公開中、イオンシネマ三田ウッディタウンでも上映されていますので、ぜひ劇場でご覧ください。

©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会
シネマエッセイ
ほんの一時期、お茶を習っていたことがある。若い頃から憧れてはいたものの、私のような粗忽者には敷居が高かった。年を重ね、時間に余裕ができた頃合いで思い切って茶道教室に通うことにした。遅ればせながら、少しは優雅な立ち居振る舞いと落ち着きが身につけば……との思いである。しかし、その茶道は長続きしなかった。そもそもの理由は膝を痛めたからであった。大型犬の、しかもやたらと他の犬に吠えつく愛犬の散歩で脚を踏ん張り続け、変形性膝関節症になってしまった。まず、正座ができない。痛みをこらえて正座をしたとしても、こんどは立ち上がれない。情けないことである。裏千家の先生は「立礼という椅子に座ってできる作法がありますよ」と、立礼で教えてくださることになったが、その稽古でもう茶道を諦めようと思う出来事が勃発したのである。釜の蓋を置くための蓋置の上に、鉄製の蓋を落としてしまったのだ。いつもの竹製ではなく陶器の蓋置だったからたまらない!袱紗で蓋をつまんだ時に袱紗が滑り、ガチャンと蓋置に衝突してしまい破損させてしまった……粗忽者ゆえの失敗。「弁償します!」と詫びたが、先生は穏やかに「弁償できるお値段ではありませんから……」と。その後、蓋置は金継ぎに出し何とか修復された。この時、私は「自分のような粗忽者にはお手前は不向き、お茶はいただく専門に留めておこう」と思い知った次第である。
映画『黒牢城』の主人公、戦国武将の荒木村重を調べてみると、晩年に茶の湯で豊臣秀吉に仕えたそうである。信長に反旗を翻し、その果てに家族や家臣を城に置き去りにして逃げた卑怯者という知識しかなかった私は、村重が生き延びて髪を剃り茶道家になったことを全く知らなかった。映画では城を脱出した後のことは描かれないが、一族が処刑された事実を彼はどんなふうに受け止めたのであろうか。本木雅弘さんが演じる村重は、「人を殺さない」ことにこだわり続けた。それなのに、自分を支えてくれた家族や家臣たちは皆、殺されてしまったのである。400年以上前の史実を斬新に脚色したこの作品は、卑怯者と認識していた荒木村重の印象をガラッと変えてしまった。見ごたえのある歴史ミステリとなっている。

©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会

©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会
荒木村重は暴虐な織田信長のやり方に反発し、籠城作戦を決行する。城は織田軍に囲まれ孤立無援に。生と死に向き合う戦国の世にあって、村重は殺さずの信念を守る武将だった。村重は妻・千代保を心の支えに、城と人々を守ろうと苦心する。そんな時、城内である少年が殺される事件が発生。その後も怪事件が次々と起こり、容疑者は密室と化した城内に居る家臣や身内の誰か。城外には敵軍、城内には裏切り者が……。誰もが疑心暗鬼になっていく中、村重は牢屋に囚われた危険な天才軍師・黒田官兵衛と共に謎の解決に挑む。謎の先にある黒幕の狙いと、事件の驚きの真相とは―。

©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会

©米澤穂信/KADOKAWA ©2026映画「黒牢城」製作委員会
監督・脚本:黒沢清
原作:米澤穂信著『国牢城』(角川文庫/KADOKAWA刊)
出演:本木雅弘 菅田将暉 吉高由里子 青木崇高 宮舘涼太 柄本佑 ユースケ・サンタマリア 吉原光夫 坂東龍汰 荒川良々 渋川清彦 渡辺いっけい / オダギリジョー
2026年製作/147分/日本/配給:松竹
https://movies.shochiku.co.jp/kokurojo-movie/
6月19日(金)より公開中
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