毎週金曜日夜9時からおおくりしている「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
©2019 Factory Gate Films All Rights Reserved
今週ご紹介した映画は、中国映画『春江水暖～しゅんこうすいだん』という作品です。
こう見えて私、中国映画が好きなのです。
このタイトルは中国・宋の時代の蘇東坡という詩人がこよなく愛した富春江という大河の風景を歌った詩の一節からとられたもの。
～竹外桃花三両枝 春江水暖鴨先知・・・～
日本語に訳すと「竹林の外で桃の花が二枝三枝と開く。春に川の水が暖かくなってきたのを最初に知るのは鴨だ……」となるそうです。
川の水が温んで、春の訪れを感じる……まさに丁度これからの季節のことを謳っている詩なのでしょうね。
監督はまだ若いのですが、中国の山水画からインスピレーションを得て、山水画のような風景の中にある大家族の生活を織り込んで絵巻のような映画を作りました。
悠久の歴史と、大きく穏やかな風景、そして逞しく生きる市井の人々……私が中国映画を好きな理由は、そんなところにあるのかもしれません。
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【STORY】
中国・杭州市、富陽。
富春江という大河が流れるこの街は、再開発の只中にある。
ある夜、グー家の家長である母・ユーフォンの誕生日の祝宴が開かれていた。
彼女のもとに4人の息子たちや孫、親戚たちが集い、口々にお祝いの言葉を贈る。
その賑やかな祝宴の最中に、突然母が脳卒中で倒れてしまう。
幸い一命はとりとめたものの、母は認知症が進み介護が必要になってしまう。
レストランを経営する長男、漁師を生業とする次男、男手ひとつでダウン症の息子を育てる三男、独身生活を気ままに楽しむ四男。
そんな息子たちが担う母の介護、それぞれの生活やお金の問題、そして孫たちの恋愛や結婚などが中国の四季を通して描かれる。
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【REVIEW】
監督は1988年生まれのグー・シャオガン。
この長編デビュー作が、2019年カンヌ国際映画祭批評家週間のクロージング作品に選ばれた。
監督の言葉によると、彼が2016年に脚本執筆のため故郷・富陽に滞在した時、その街の変化に驚いたそうだ。
彼の記憶の中にある故郷はいつも静かで退屈な街だったのに、2022年開催のアジア競技大会のために住居の立ち退きや取り壊しが進んでいる。
それを目の当たりにして、地元の人間としての意識とクリエイターという意識の両方から、この変わりゆく時代を記録したいと思った……と。
監督は、山水画の絵巻「富春山居図」にインスピレーションを得て、クラシックでありながら革新的な映画を完成させた。
山水画のイメージを生かして、横移動スクロールの超ロングテイクや壮大なロングショットがスクリーンに広がる。
なかでも最も印象に残るのは、長男ヨウフの娘グーシーと恋人のジャン先生がデートをする川辺のシーン。
ジャン先生が川を泳ぎ、グーシーが岸を歩いて、どちらが早いか競争する10分ほどのシーンをずーっとカメラが横移動で追い続ける。
川沿いにいる人々が遊ぶ姿や語り合う姿も映り込み、延々と川辺のシーンが続くのだが、全く退屈しない。
退屈どころか、いつまでも見ていたい……何なら、海へと続く河口までも追ってもらいたいとさえ思える素晴らしいシーンだ。
このシーンも含めて、人々の生活を長い絵巻物のように見せるこの作品は、中国の春夏秋冬の行事も丁寧に描いている。
それと同時に、息子たちのそれぞれの生活や苦悩、さらに高齢の母と、嫁、孫娘という女性の生き方が3世代で変化している様子も感じ取れる。
なんと！ この大家族のキャストはもちろんのこと、ほとんどの登場人物を監督の親戚や知り合いという素人さんが演じているそうだ。
なるほど、計算した芝居をしない“普通の人”の演技は、いい意味でドキュメンタリー的リアル感を醸し出している。
こういう作品に触れると、本物の俳優さんの演技が嘘くさく見えるので要注意！
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監督・脚本：グー・シャオガン
出演：チエン・ヨウファー ワン・フォンジュエン
2019年 中国 150分 配給：ムヴィオラ
公式サイト：http://www.moviola.jp/shunkosuidan/
2月19日（金）から テアトル梅田で公開 神戸元町映画館では3月13日から公開
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