毎週金曜日、夜9時からおおくりしている「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週ご紹介した映画は、知られざる史実に基づいた衝撃のサスペンス『復讐者たち』。
第2次世界大戦のホロコーストを生き延びたユダヤ人たちの復讐計画を描いた作品です。
夏は、やはり“戦争と命”についてより深く考えたい季節でもありますね。
【STORY】
1945年、敗戦直後のドイツ。
ホロコーストを生き延びたユダヤ人のマックスが難民キャンプに流れ着く。
彼はある女性から、強制収容所で離ればなれになった妻子がナチスに殺された事実を知らされる。
復讐心を煮えたぎらせたマックスは、ナチスの残党を密かに処刑しているユダヤ旅団の兵士ミハイルと行動を共にする。
そんなマックスの前に現れた別のユダヤ人組織ナカムは、ユダヤ旅団よりもはるかに過激な報復活動を行っていた。
ナカムを危険視する恩人のミハイルに協力する形でナカムの隠れ家に潜入したマックスは、彼らが準備を進める“プランA”という復讐計画の全容を突き止める。
それはドイツの民間人600万人を標的にした恐るべき大量虐殺計画だった……。
【REVIEW】
監督は、イスラエル出身のドロン・パズ&ヨアヴ・パズという兄弟ユニット。
ふたりは、この作品を普通のホロコースト映画ではなく、力強い歴史的サスペンスとして描いた。
そうすることで、ミニシアターファンだけではなく幅広い人々の心に届く意義深い作品になることを目指したという。
第二次世界大戦中に、ナチス・ドイツがユダヤ人に対して行った国家的な絶滅政策であるホロコーストでの惨劇。
その犠牲となって命を奪われたユダヤ人は、600万人以上といわれる。
600万の犠牲者がいれば、その数だけの悲劇やドラマがあるはずで、人類史上最悪のこの蛮行は膨大な数の映画の題材となっている。
現在もホロコーストにまつわる知られざる史実が次々と掘り起こされ、ホロコースト関連の新しい映画は尽きることがない。
「目には目を、歯には歯を」という、ナチスへの復讐計画に関わった生存者たちに取材して作られた、この「復讐者たち」。
最初と最後に「何の罪もない兄弟、両親、子ども達が殺されたならば、あなたはどうするか」というテロップが流れる。
復讐の善悪ではなく、あなたならどうするかという究極の難題を見る者に突きつけて考えさせる……そんな作品なのだ。
もし、今の私がそう訊かれたら、やはり「愛する家族がやられた以上の復讐をしたい」と思うだろう。
しかし、その一方で、「復讐に心を囚われるより、自分の人生を素晴らしいものにすることこそが最大の復讐になるのではないか」とも。
実際のところ、ユダヤ人絶滅を狙ったナチスへの一番の復讐は、「ユダヤ人として生き続けること、絶滅しないこと」なのではないか……。
その苦悩や心の葛藤を秘めて、主演のアウグスト・ディールが、時に激しく、時に冷淡にマックスを演じている。
否定も肯定もできない『復讐』という難しいテーマで、自分自身の心が試されるような作品である。
思いもよらないラストの景色に救われる人も多いのではないだろうか?
監督・脚本:ドロン・パズ ヨアヴ・パズ
出演:アウグスト・ディール シルヴィア・フークス マイケル・アローニ イーシャイ・ゴーラン
2020年 ドイツ・イスラエル 110分 配給:アルバトロス・フィルム
https://fukushu0723.com/
8月6日(金)~テアトル梅田 シネ・リーブル神戸などで公開