毎週金曜日の夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」、鳥飼美紀です。
今週はギリシャの仕立て屋さんを主人公にした『テーラー 人生の仕立て屋』をご紹介しました。
【STORY】
ギリシャのアテネで高級スーツの仕立て屋を父と営んできた50歳のニコス。
無口で内気な性格のニコスは、店の上の屋根裏部屋に一人で住んでいる。
ギリシャを不況が襲うなか、銀行から突然店の差し押さえの通知が届き、ショックで父が倒れてしまう。
父のためにもなんとか店を立て直したいニコスは、廃材を使ってミシンを乗せた屋台を作り、移動式の高級スーツの仕立て屋を始める。
思い切って店を飛び出してはみたものの、高級なオーダーメイドスーツは道端では全く売れず、商売は傾く一方。
途方に暮れていると、ある女性に声をかけられる。
「娘の結婚式用のウェディングドレスは作れる?」
これまでは紳士服一筋のニコスだったが、父のため、そして大切な店のため、初めてのウェディングドレス作りに挑むことに。
彼は、隣に住むオルガという女性の協力を得てウェディングドレスを縫い上げる。
オーダーメイドのニコスのウエディングドレスは次第に評判になり、アテネの女性達の間でたちまち大人気に。
ニコスとオルガは阿吽の呼吸でウエディングドレスの制作に没頭するが、良きパートナー関係のふたりの間にはある問題があった……。
そして、昔気質な父は女性服を作るニコスをなかなか認めようとはしてくれず……。
【REVIEW】
ミシンを踏むリズミカルな音から始まる。もちろん足踏みミシンだ。
ニコスの店は、一見して、流行っていないのがわかる。
店の中には亡くなってしまった顧客の型紙がどっさり保管してある……そんな状態なのだ。
しかし、ニコスは毎日きちんとスーツを着て店に立つ。
オーナーである頑固な父親も、胸ポケットからチーフをのぞかせるのを忘れない。
技術とプライドは一流品の親子なのだ。
台詞の口数や説明は少ないが、色々な点で見入ってしまうユニークな作品だ。
質の良い生地、ボタン、長年ニコスが使い込んだ道具など、心の落ち着く小道具の映像が魅力的。
そして何と言っても、ニコスを演じるディミトリス・イメロスの顔の作りと表情が、大きな見どころ!
顔が大きい、眉が濃い、目力がすごい(目がものを言う)、そんな彼の表情が印象的で忘れられない!
そのニコスがスーツ姿で、自転車に取り付けた屋台を引っ張る。
そのうちバイクになり、そしてラストは車で移動するようになっていく。
さて、彼の人生やいかに?
監督は、ギリシャ出身のソニア・リザ・ケンターマンという女性監督。
これまでは短編映画を手掛け、この作品が初めての長編映画だという。
彼女の作品のメインテーマは“はみだし者たち”だそうだ。
いわゆる負け組とレッテルを貼られた人々が、突破口を見いだし危機を乗り越えていく姿に惹かれるとか。
この物語の主人公ニコスも、崖っぷちで自分の思考を変え、受け身の姿勢から攻めの人生を選ぶ。
しかも50歳から……とても勇気ある選択だと思うし、彼の攻めの行動はコロナ禍で沈みがちな私たちを元気にしてくれる。
嘆いてばかりいないで、できることを考えよう、そんな気持ちにさせてくれるタイムリーな作品だ。
監督:ソニア・リザ・ケンターマン
出演:ディミトリス・イメロス タミラ・クリエヴァ
2020年 ギリシャ・ドイツ・ベルギー 101分 配給:松竹
https://movies.shochiku.co.jp/tailor/
9月3日(金)~大阪ステーションシティシネマ 神戸国際松竹などで公開