金曜の夜９時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週は、昨年のカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した『逆転のトライアングル』をご紹介しました。
「驚くべき人間観察眼とセンス抜群のブラックユーモアで、毎回観客を絶妙にいたたまれない気持ちにさせる」という、スウェーデンの鬼才リューベン・オストルンド監督の作品。
彼は、2017年の『ザ・スクエア 思いやりの聖域』で、カンヌ国際映画祭の最高賞であるパルムドールを受賞。
そして昨年、本作品でパルムドール連続２作目の受賞という快挙（史上３人目！）を成し遂げました。
日本での公開を心待ちにしていた映画ファンは多いのではないでしょうか。
この作品、もしかしたら万人向けではないかもしれませんが、これぞブラックユーモアといえる面白い作品ですよ。
ちなみに、今年の第95回アカデミー賞®でも作品、監督、脚本の3部門にノミネートされています。
Fredrik Wenzel © Plattform Produktion
【STORY】
モデルで人気インフルエンサーのヤヤと、男性モデル・カールのカップルは、招待を受け豪華客船クルーズの旅に。
リッチでクセモノだらけな乗客がバケーションを満喫し、高額チップのためならどんな望みでも叶える客室乗務員が笑顔を振りまくゴージャスな世界。
しかしある夜、船が難破。そのまま海賊に襲われ、彼らは無人島に流れ着く。
食べ物も水もSNSもない極限状態に追い込まれる中、ヒエラルキーの頂点に立ったのは、サバイバル能力抜群な船のトイレ清掃婦だった！
Fredrik Wenzel © Plattform Produktion
【REVIEW】
ブラックユーモア、ただし大人が楽しめる洗練されたブラックユーモアがギュウギュウ詰め。
主人公は、ファッションモデルのカールとヤヤのカップル。
私は初耳だが、男性モデルは一般的に女性モデルよりかなりギャラが安いらしい。
そんなファッション業界のあるあるを冒頭からカールのオーディションやヤヤとの喧嘩で教えられる。
カールとヤヤの喧嘩というのは、レストランの支払いをどちらがするかという些細な事なのだが、このシーンは監督自身が実際に経験したパートナーとの諍いから着想を得たらしい。
それゆえ非常にリアルで、細かく、長いシーンとなっているが、けっして退屈ではない。
そして多くのカップルがそうであるように他愛なく仲直りして、二人は豪華客船クルーズの旅に出るのだ。
Fredrik Wenzel © Plattform Produktion
ともに乗り込んだセレブたちを、辛辣に且つユーモラスに描いているのが面白い。
たとえば、ロシアの大富豪……有機肥料で大儲けした成金で、「私はクソの帝王」と下品な言葉遣いがお得意。
またイギリスのお金持ち高齢夫婦は、優しさと品の良さを醸し出しながら手榴弾や地雷を作る武器製造会社を経営しているというギャップ。
そんなセレブたちの悪気のない無神経な要求に、完璧に答える船のクルーたちの笑顔はすべて高額チップのためである。
Fredrik Wenzel © Plattform Produktion
やがて物語の中盤には、そのセレブたちが地獄のような責め苦に苛まれる時がやってくる。
笑っていいやら、心配していいやら、気持ち悪がっていいやら～のシーンが、スクリーンいっぱいに「これでもか」と描かれるのだ。
ここまでの強烈なシーンを私は見たことがない。
そんな阿鼻叫喚の一夜を経て、夜が明けると船から投げ出された数人が無人島に流れ着く。
食べ物も水もSNSもない極限状態のなか、ものをいうのがサバイバルスキルなのだ。
これまでライトを当てられなかったある人物が、ここでヒエラルキーのトップにのし上がる。
立場は逆転し、権力を握った人間はその途端に全能の神になったような気になるのか……と冷笑してはいられないラストが待っている。
監督・ 脚本：リューベン・オストルンド
出演：ハリス・ディキンソン チャールビ・ディーン ウディ・ハレルソン ヴィッキ・ベルリン ドリー・デ・レオン
2022年／スウェーデン／147分／配給：ギャガ
https://gaga.ne.jp/triangle/
2月23日（木・祝）、TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー
関西ではＴＯＨＯシネマズ梅田 シネ・リーブル神戸 ＴＯＨＯシネマズ西宮ＯＳなどで公開
