今週の2本目のとっておきシネマは、現場実習生として働き始めた現役高校生が、自ら命を絶ったという実話に基づいた『あしたの少女』。
この映画の公開後、韓国では現場実習生の保護を求める世論が高まり、職業系高校の現場実習に関する改正案が国会の本会議を通過したそうです。
【STORY】
高校生のソヒは、担任教師から大手通信会社の下請けのコールセンター運営会社を紹介され、実習生として働き始める。
しかし、会社は顧客の解約を阻止するために従業員同士の競争をあおり、契約書で保証された成果給も支払おうとしなかった。
そんなある日、指導役の若い男性チーム長が自殺したことにショックを受けたソヒは、自らも孤立して神経をすり減らしていく。
やがて、凍てつく真冬の貯水池でソヒの遺体が発見される。
捜査を担当する刑事・ユジンは、彼女を自死へと追いやった会社の労働環境を調べ、いくつもの根深い問題をはらんだ真実に迫っていく…。
【REVIEW】
日本でもブラック企業という呼び方をされる、劣悪な労働環境が現実にある。
それは民間だけではなく、公の職場でも「長時間労働」や「パワハラ」などで、命を絶ってしまうほど人を追い詰めることがある。
この物語の主人公は高校生で、実習という形で学校から紹介された企業で働き、そして3か月後に自ら命を絶ってしまう。
「死ぬほどつらいなら辞めればいい」という簡単な言葉で片づけられないことを、私たちは知らなければならない。
単なる「職場体験」ではなく、学校と業者との関係性により、簡単には逃げ出せない仕組みの「労働」なのである。
物語は2部構成で、主人公ソヒが実習生としてコールセンターで働く前半は、物語のベースになった実際の事件を忠実に再現していく。
事件を捜査する刑事ユジンが主人公の後半はフィクションで、ユジンがソヒの足取りを追体験していく捜査のプロセスという、異なる時間軸が描かれていく。
実話に基づいた前半も、その後の捜査で事件の背景にある真相が暴かれるのを描いた後半も、とても興味深い。
韓国映画にあまり馴染みのなかった私は、このように社会的な問題を鋭く描く韓国映画にハマりそうだ。
監督・脚本:チョン・ジュリ
出演:ペ・ドゥナ キム・シウン
2022年/韓国/138分/配給:ライツキューブ
https://ashitanoshojo.com/
8月25日(金)~シネマート心斎橋 kino cinema 神戸国際 MOVIXあまがさき などで公開。