今週のとっておきの1本は、女性で初めて世界最高峰のエベレスト登頂に成功した登山家・田部井淳子さんをモデルにした物語。登山はよく人生に喩えられます。人生山あり谷あり、誰もが自分の“てっぺん”を目指して生きているのではないでしょうか。映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』は、どんな困難があろうとも前に進み続け、“てっぺん”に挑み続けた、ひとりの女性登山家とその家族の物語です。美しい山々の景色も見どころです!

©2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会
シネマエッセイ
この原稿を書いているのは10月19日。日本で初めての女性総理が誕生するか否かで、メディアは喧しい限り。映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』は、女性で初めて世界最高峰のエベレスト登頂を成し遂げた田部井淳子さんをモデルにした物語である。人はなぜ山に登るのか? そこに山があるから……という名言がある。そこにある山に登ることを決めるのは自分自身であり、登ると決めたのであれば、「てっぺん」を目指して自らの足で一歩ずつ進むしかない。「てっぺん」とは登山であればもちろん山の頂上であるが、人によっては総理大臣、企業のトップ、起業、スポーツ大会やコンクールでの優勝、学業での1位など、さまざまなてっぺんがあるだろう。目指すてっぺんは何だっていい。それを目標と定め、日々努力し、成し遂げることができたなら、それがてっぺん制覇だ。
先日、ある朗読コンクールの本選を観覧に行った。朗読仲間のひとりが本選出場すると聞き、てっぺんである最優秀賞を受賞する瞬間を目撃したかったのだ。てっぺんに到達する実力は十分にある彼女だから……。コンクール本選出場者たちの朗読はさすがに素晴らしかった。まさしく甲乙つけがたいとはこのことで、審査員の方々は順位付けにさぞ苦しんだことだろう。私の仲間は、惜しくもてっぺんには届かず2番手であった。しかし彼女は、11月に開催される別の朗読コンクールの本選出場権も手にしている。今回の山には1番で登ることができなかったが、次の山にはきっと……と私は願っている。かくいう私、関西のある朗読コンクールでてっぺん制覇をしたことがある。てっぺんに立って見晴るかす景色は爽快で、視線の先に大きな山、小さな山、数多の山々が見える。次はあの山に登ってみようか……という気になる。朗読ブームの今、日本全国に大小さまざまなコンクールがある。ひとつのコンクールを制覇したら、また別のコンクールにチャレンジしようと思うのは、登山と同じく果てしない挑戦だ。そのために準備をする。毎日の発声や滑舌の練習、作品選び、何度も何度も読み込んで解釈や表現を深めていく。あいにく努力・根性・忍耐が苦手な私は次の山に登る準備が甘く、未だに他の山のてっぺんを知らない。この映画は、そんな私に「何やってんの!」と気合を入れてくれた作品である。また頑張って、てっぺんを目指してみようか?

©2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会

©2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会
1975年、エベレスト山頂に向かう一人の女性の姿。一歩一歩着実に山頂(てっぺん)に向かっていくその者の名前は多部純子。日本時間16時30分、純子は女性として初の世界最高峰制覇を果たした―しかしその世界中を驚かせた輝かしい偉業は純子に、その友人や家族たちに光を与えると共に深い影も落とした。晩年においては、余命宣告を受けながらも「苦しい時こそ笑う」と家族や友人、周囲をその朗らかな笑顔で巻き込みながら、人生をかけて山へ挑み続けた。登山家として、母として、妻として、一人の人間として…。
純子が、最後に「てっぺん」の向こうに見たものとは―。

©2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会

©2025「てっぺんの向こうにあなたがいる」製作委員会
出演:吉永小百合、のん、木村文乃、若葉竜也、天海祐希、佐藤浩市
監督:阪本順治
脚本:坂口理子 音楽:安川午朗
原案:田部井淳子「人生、山あり“ 時々”谷あり」(潮出版社)
2025年製作/130分/日本/配給:キノフィルムズ
https://www.teppen-movie.jp/
10月31日(金)全国公開
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