毎週金曜日配信の最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。今週のとっておきの1本は、アメリカ映画『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』。今年のアカデミー賞®で、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフが助演女優賞を受賞した話題作です。
~シネマエッセイ~
6月22日は「ボウリングの日」だそうだ。桑田佳祐ソロナンバーに「レッツゴーボウリング」という楽しい曲がある。ボウリング好きの桑田さんが、往年のプロボウラー(中山律子さんや須田開代子さんなど)の名前を挙げながら~レーンという大海原にボールを転がしてみませんか~と私たちを誘う。日本では1970年代にボウリングの大ブームが起きたが、当時中学生だった桑田さんはプロボウラーを目指していた……とか。現在でもオフの日には足繫くボウリング場に足を運び、ファンを巻き込んでのボウリング大会『KUWATACUP』なども開催して大いに楽しんでいる様子だ。
映画『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』では、1970年当時のアメリカのボウリングシーンがほんの少し描かれている。舞台は全寮制の名門私立男子校で、その年のクリスマスに家族の元に帰れなかった生徒と、そのお守り役の先生が徐々に心を通わせていく物語だ。成績優秀だが生意気で親の愛に飢えている生徒と、真面目過ぎて頑固な嫌われ先生が、2週間のクリスマス休暇を過ごす。2人の食事の世話をするのは寮の料理長の女性。それぞれ孤独を抱える3人の生活はギクシャクと始まる。そのうち少し打ち解けてきた生徒が、クリスマス当日に学校を出て街に行きたいと言い出す。先生は戸惑うが社会見学として受け入れ、出かけることに……。先生と生徒は博物館や映画館、スケートなどを楽しむが、その中のひとつがボウリングなのだ。しかし、何かが違うような気がして目を凝らすと……ボールがかなり小さく、手でわしづかみにして投げている。なぜなら、指を入れる穴がないのだ! これはボウリングなのか? きっと、当時のアメリカには指穴の無い小ぶりのボールを使ったボウリングというのがあったのだろう……。
そんな1970年にこだわった文化や建物、車や服装に、フィルムで撮影したように見えるザラついた質感の映像、そしてBGMの数々が懐かしさを醸し出す。実は、先生と生徒にはそれぞれ誰にも言っていない秘密があり、物語の後半に明らかになる。人は一面だけではわからない複雑な生きもので、隠されたところに孤独や哀しみを抱えている。ほとんどが雪景色だったからだろうか、ラストの先生の優しさがじわっと温かく心に沁みる。生徒はこの年のクリスマスのことを一生忘れないでほしい……と願うのは私だけではないだろう。
1970年冬、ボストン近郊にある全寮制のバートン校。クリスマス休暇で生徒と教師のほぼ大半が家族と過ごすなか、生真面目で融通が利かず、生徒からも教師仲間からも嫌われている考古学の教師ハナムは、家に帰れない生徒たちの“子守役”を任命される。学校に残ったのは、勉強はできるが家族関係が複雑なアンガス・タリー。食事を用意してくれるのは寮の料理長メアリー・ラム。メアリーは一人息子のカーティスをベトナムで亡くしたばかりで、息子と最後に過ごした学校で年を越そうとしている。さて、この3人で過ごすクリスマスはどんなことになるのか……。
監督:アレクサンダー・ペイン
脚本:デヴィッド・ヘミングソン
出演:ポール・ジアマッティ ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ ドミニク・セッサ
2023年/アメリカ/133分/配給:ビターズ・エンド ユニバーサル映画
©FOCUS FEATURES LLC.
https://www.holdovers.jp/
6月21日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー
映画『ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ』オリジナルサウンドトラック
【とっておきシネマ】
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