今週のとっておきの1本は、アメリカのインディペンデント映画『カーテンコールの灯』。
ある悲しい出来事でバラバラになりかけている家族が、希望のありかを探し求めていく軌跡を、誰もが知るシェイクスピアの戯曲「ロミオとジュリエット」のストーリー展開に重ね合わせた物語です。夫と妻と娘の3人家族を演じる俳優たちは、実際にも本当の家族なのだそうですよ!

©2024, Ghostlight LLC.
【シネマエッセイ】
HONEY FMのWEBラジオで映画紹介をしている私は、アマチュア朗読家でもある。朗読関連で知り合った人の中に、ある舞台女優さんがいる。女性ばかり5人の小さな劇団に所属し、年に1~2回開催される彼女たちの公演を私はここ何年か欠かさず観に行っている。劇団の主宰者が女性の落語家と講談師なので、ふだんの公演はお笑いやものまねがあり、最後にハートウォーミングなオリジナルのお芝居で締める。小さな劇場とはいえ、2日間の公演はいつも満席である。その劇団が昨年の秋公演で、実験劇場と称して清水邦夫の名作『楽屋』を上演した。チェーホフの『かもめ』上演中の楽屋が舞台となっていて、幕が上がると鏡を前に2人の女優が念入りに化粧をしている。実は彼女たちはこの楽屋に棲みつく“幽霊”なのだった。哀しいことに、彼女たちは永遠にやってこない出番に備えているのだ。生前、女優としての花を咲かせることができなかった人間の怨念が、怖いような哀しいような……ふだんの笑い満載のお芝居とは一味違って、とても見ごたえのある実験劇場だった。
さて、今回の映画『カーテンコールの灯』の原題は、英語の『Ghostlight(ゴーストライト)』。ゴーストライトとは、終演後など人のいない真っ暗な劇場の舞台中央に、一個の電灯を置く演劇の慣習を指すらしい。その光は劇場に取り憑いた“幽霊”をなだめたり、祓ったりするという迷信があるとか。劇場の“幽霊”とは、おそらく志半ばにこの世を去った役者の魂なのだ。死してなお魂は舞台をさまよう……それほどに「演じる」ということは全身全霊をかけたパフォーマンスなのだろう。この映画の主人公ダンは誘われるままにアマチュア劇団の稽古に加わる。仲間に温かく迎え入れられ主役に抜擢されるが、彼にはどうしても演じることができないシーンがあった。その気持ちにどうやって彼は折り合いをつけるのか。映画のラスト、クライマックスの舞台上で横たわるロミオ役のダンの目には、暗闇にぼんやりとしたシルエットが見える。それは劇場の幽霊なのか、それとも……。

©2024, Ghostlight LLC.

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アメリカ郊外の町。建設作業員のダンはひどく憂鬱な日々を送っていた。昨年、家族に降りかかった悲惨な出来事の痛手を引きずっているダンは、不器用な性格も災いして妻や思春期の娘とはすれ違いがちだ。そんなある日、見知らぬ中年女性から地元のアマチュア劇団に勧誘されたダンは、彼女らの舞台「ロミオとジュリエット」に参加することに。これまで演劇とは無縁のダンだったが、妻と娘のサポートも得て、ぎこちなくも稽古に熱中していく。しかし、シェイクスピアの悲劇と自らのつらい経験を重ね、セリフをしゃべれなくなってしまう。そして訪れた上演当日、ついにダンと家族の切なる思いがこもった 「ロミオとジュリエット」の幕が開く……。

©2024, Ghostlight LLC.

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共同監督:ケリー・オサリヴァン アレックス・トンプソン
出演:キース・カプフェラー キャサリン・マレン・カプフェラー タラ・マレン ドリー・デ・レオン
2024 / アメリカ / 115分 / 配給:AMGエンタテインメント 映倫:PG-12
©2024, Ghostlight LLC
https://amg-e.co.jp/item/curtaincall/
6月27日(金) Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下他全国公開
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