今週は、2017年、タイで驚異の口コミヒット! そして、世界16の国と地域、日本でも満席続出の超人気作『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のアメリカ版リメイクをご紹介します! 2014年のフランス映画『エール!』を2021年に『コーダ あいのうた』としてリメイクし、アカデミー賞作品賞を受賞したスタッフが集結したそうですよ。オリジナルのタイ版を観た人も、飽きることなく楽しめるスリリングな作品です。
【シネマエッセイ】
私が通っていた小学校の正門前に「横山商店」という文具店があった。広い間口の引き戸は開け放たれ、壁には作り付けの棚がぐるりとあり、ノートや色鉛筆、クレヨン、ぐるぐる取っ手を廻して使う鉛筆削り、書道セットなどが整然と並べられていた。中央には大きな平台が置かれ、瓶に詰められた味付きのスルメやカンロ飴、舐めるサイダーの袋などが並び、「当てもん」も台の横にぶら下がっていた。店主の横山のおばちゃんは、いつも地味な色合いの着物に割烹着姿。子どもの目からすると“おばあちゃん”と言ってもいいような年齢に見えたが、いつも明るい笑顔で何かと話しかけてくれる。おばちゃんは、子どもたちが文房具を買うと、店の奥で蒸し上がる売り物の自家製お饅頭を1つオマケにくれた。手のひらにのせてもらったお饅頭を齧ると、薄皮がプチっと裂け、歯の間から舌の上に餡子の甘さがじんわり広がる。アツアツでも冷めていても、とても美味しかった。おばちゃんは私が何も買わなくても、店を覗けば何故か必ずお饅頭をくれた。そして優しい笑顔でこう言う。「ミキちゃんは賢い。通知表はオール5やもんね」。(どうしておばちゃんは何も買わない私にお饅頭をくれるの?)(私がオール5って……誰から聞いたの?)そんな疑問を感じながら、いつしか私は暗示にかかったかのように「私は賢い」と信じ込むようになった。大人になって、横山のおばちゃんが亡くなったという知らせを聞いた。そうか……私のことを手放しで「賢い」と褒めてくれる人はもういないのかと寂しく思うと同時に、小学生の頃に感じた疑問の答えが何となく解けたような気がした。小さな町のことだから、わが家の暮らしぶりをおばちゃんは知っていたのだろう。あのお饅頭と「ミキちゃんは賢い」の言葉は「貧しさに負けないで」というエールだったのではないだろうか。人から褒められ、認められることが自分にどれだけの自信とパワーを与えてくれたか。私は自信を失くした時、必ず横山のおばちゃんの「ミキちゃんは賢い」という言葉を思い出し、幾多の壁を乗り越えることができた。おばちゃんの優しさに心から感謝している。ただし……である。私の記憶の中で“通知表がすべて5で埋められた”ことなど、ただの1度もないのだけれど……。
さて映画『 BAD GENIUS/バッド・ジーニアス』の主人公リンは、「賢い」などというレベルではない。全科目で毎年学年トップの成績を収め、数学大会では1位、全米クロスワードパズルで3回優勝という実績を誇る、常人離れした頭脳の持ち主。つまり「天才」である。そんなリンが友人を助けるために行った小さなカンニングをきっかけに、世界共通試験を舞台にした前代未聞の大計画を企てる。最初から最後までスリリングで、ハラハラが止まらない!
2016 年のアメリカのとある地方都市。貧しい家庭に育つ天才少女・リンが有名高校に特待入学するところから物語は始まる。落第の危機に瀕した親友を助けるため、リンは試験中にある方法で答えを教えてしまう。その事件をきっかけに、リンを取り巻く環境は一変。やがて、世界を跨ぐカンニング計画の実行へと発展していくのだった―。
監督:J・C・リー
脚本:J・C・リー ジュリアス・オナー
出演:カリーナ・リャン ジャバリ・バンクス AND ベネディクト・ウォン
2024年/アメリカ/97分/PG12/配給:ギャガ
https://gaga.ne.jp/badgenius/
7月11日(金)全国ロードショー
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