今週は、⼩規模な作品ながらフランスで約100万⼈を動員しサプライズヒットとなった『ホーリー・カウ』をご紹介しましょう。ルイーズ・クルヴォワジエ監督は、物語の舞台であるフランス・ジュラ地⽅で育ったそうです。キャストに地元の演技未経験者を起⽤し、農場を営む監督の家族がスタッフとして参加したこの作品は、壮⼤な⾃然の景⾊と共に、美しいだけではない農村のリアルな暮らしを感じさせてくれます。
シネマエッセイ
最近、親しい友人たちとLINEでやり取りした後、締めの言葉に「ほいたらね~」と入れることが多い。私の生まれ故郷、高知の方言で「じゃあね~バイバイ」というような意味である。今週、最終回を迎えたNHK朝ドラ『あんぱん』のナレーションで使われ、私と友人たちの間でも広まっているのだ。『あんぱん』は、アニメ『アンパンマン』で有名な高知出身の漫画家やなせたかしさんと、妻の暢さんをモデルにした物語である。男勝りで“はちきん”と呼ばれる主人公のぶと夫の嵩が「逆転しない正義」を探し、『アンパンマン』にたどり着くまでが描かれた。ドラマの中でのぶが驚くと、「たまるか~!」という高知の方言を使うのがお約束になっている。これは英語の「オー・マイ・ゴッド!」のニュアンスで、「なんてこった」と「なんて素晴らしい」の両方の意味で使われる。このほかにも、こじゃんと=たくさん、へんしも=大急ぎで、おっこい=大げさな、ずかれる=怒られる、ばぶれる=暴れる、ぼっちり=ちょうど良い……などなど、個人的にお気に入りの方言がある。これらの言葉は93歳の私の母が、日常使っている高知弁である。母は若い頃に15年ほど関西に住んでいたことがあるが、5年前に我が家で同居を始めるまで、人生の70年以上を高知で暮らしてきた。故に、おいそれとは高知弁が抜けない。先日、母と帰省したときのこと。高知駅の待合コーナーで、帰りの列車を待っている私たちの前を、超々々ミニスカートの若い女性2人が通り過ぎた。それを見た母が、なかなかのボリューム音で言い放った。「たまるか~!」。戦前生まれの母にとっては、まさに「オー・マイ・ゴッド!」(なんてこった!)だったようだ。
さて、10月10日公開のフランス映画『ホーリー・カウ』。タイトルの「HOLY COW」とは「マジかよ!」「なんてこった!」など感嘆を表す英語らしい。イコール「OH MY GOD」であろうか。そうなると、まさに高知弁の「たまるか~!」になる。原題はフランス語で「Vingt Dieux(ヴァン・デュー)」。これも同じく「なんてこった!」という慣用句。気ままに生きてきた青年が、ある日突然「なんてこった」な境遇に突き落とされるものの、一念発起してチーズ作りに挑戦する。が、その思惑とやり方がどうもいただけない。それも含めての主人公の成長物語。ラストには主人公トトンヌを見守る眼差しになっている自分に気づくのだ……。
フランス、コンテチーズの故郷ジュラ地⽅。18歳のトトンヌは、仲間と酒を飲み、パーティに明け暮れ気ままに過ごしている。しかし現実は容赦無く彼に襲いかかる。ある⽇チーズ職⼈だった⽗親が不慮の事故で亡くなり、7 歳の妹の⾯倒を⾒ながら、⽣計を⽴てる⽅法を⾒つけなければならない事態に……。そんな時、チーズのコンテストで⾦メダルを獲得すれば3万ユーロの賞⾦が出ることを知り、伝統的な製法で最⾼のコンテチーズを作ることを決意するが……。

© 2024 – EX NIHILO – FRANCE 3 CINEMA – AUVERGNE RHÔNE ALPES CINÉMA
監督:ルイーズ・クルヴォワジエ
出演:クレマン・ファヴォー、ルナ・ガレ、ディミトリ・ボードリ、マイウェン・バルテレミ、アルマン・サンセ・リシャール、リュカ・マリリエ、イザベル・クラジョー
2024年製作/フランス/92分/配給:ALFAZBET
https://alfazbetmovie.com/holycow/
10月10日(金)全国順次公開
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