毎週金曜日、夜9時からの「とっておきシネマ」、鳥飼美紀です。
今週は現在公開中の2つの作品をご紹介しました。
どちらの作品も「心の再生」
まずは、スペインとフランスが舞台の母と息子の物語、「おもかげ」という作品。
スペイン・マドリードに住むエレナは、離婚した夫と旅行中の6歳の息子イバンから「パパが戻ってこない」という電話を受ける。
ひと気のないフランスの海辺から掛かってきたその電話が、息子の声を聞いた最後となる。
10年後、エレナはその海辺のレストランで働いていた。
ある日、息子の面影を宿したフランス人の少年ジャンを浜辺で見かける。
その後、ふたりは言葉を交わすようになり、エレナを慕うジャンは彼女の元を頻繁に訪れるようになる。
そんなふたりの関係は、周囲に混乱と戸惑いをもたらしていくのだった。
スペインのロドリゴ・ソロゴイェン監督の短編映画「Madre」(2017年)は、世界各国の映画祭に出品され50以上もの映画賞を受賞。
今回の『おもかげ』は、「Madre」の〈その先〉を描いた長編映画で2019年のヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門に選出され、主演のマルタ・ニエトが女優賞を受賞している。
大西洋に面する美しい海辺を舞台に、息子を失ってから時間が止まってしまった母エレナが、息子の面影をまとう少年ジャンを通じて「生き直す」。
暗闇から光へ、死から生へ、罪悪感から赦しへ、そして恐怖から愛へと少しずつ歩み始める、一人の女性の再生の物語である。
冒頭は緊迫のシーンで、サスペンス映画さながらの胸騒ぎに襲われる。
浜辺に一人残された息子はどうなるのか?
元夫は息子を置いてどこへ行ったのか?
そして、10年後に出会ったジャンはもしかしたら…とこちらは(もちろん)期待する。
ところが、映画は私たちの心を少しだけ揺るがせて、ある結末へ向かう。
人生には、決着のつかないことがあることを思い出させてくれる作品である。
監督:ロドリゴ・ソロゴイェン
出演:マルタ・ニエト ジュール・ポリエ アレックス・ブレンデミュール アンヌ・コンシニ フレディック・ピエロ
2019年 スペイン、フランス 129分 配給:ハピネット
http://omokage-movie.jp/
テアトル梅田などで公開中。神戸元町映画館 シネピピアなどでも順次公開予定。
さて2つ目は父と息子のお話、イスラエル映画「靴ひも」。
エルサレムで小さな車の整備工場を営むルーベンのもとに、数十年前に別れた妻と暮らしていた息子ガディがやって来る。
元妻が交通事故で亡くなり、発達障害のあるガディを受け入れてくれる施設が見つかるまで、父親のルーベンのアパートで同居することになったのだ。
明るい性格でフレンドリーなガディは、一方で皿の上の食べ物の配置や寝る前のルーティーンなど、こだわりの強い部分もあり、ルーベンは戸惑う。
ようやくふたりの生活に慣れた頃、ルーベンが医師から命にかかわる病を宣告される。
息子の行く末を心配するルーベンは、ソーシャルワーカーから勧められた給付金を申請することに。
その面接で、ガディは靴ひもが結べるかどうかを試されることになった。
もし結べなければ、特別な支援が必要と判断され給付金が受け取れるのだ……。
ガディが靴ひもを結ぶシーンが3回ある。
1度目は、結ばないと決めていた。
2度目は? そして、3度目は……。
最初はわだかまりのあった父と息子。
徐々にお互いへの偏見がほどけて、やがては父の命を救う“あること”を息子は提案する。
さて、その後のふたりは……?
それは、私たちの期待どおりの結末ではないかもしれない。
しかし、それで終わりではなく、ある“希望”で私たちの心はきっと満たされるはず。
監督:ヤコブ・ゴールドヴァッサー
出演:ネボ・キムヒ ドヴ・グリックマン エヴェリン・ハゴエル ヤフィット・アスリン エリ・エルトニオ
2,018年 イスラエル 103分 配給:マジックアワー
https://www.magichour.co.jp/kutsuhimo/
シネ・リーブル梅田で現在公開中
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