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【とっておきシネマ】フランス映画『パリの調香師 しあわせの香りを探して』

金曜日の夜9時からおおくりしている「とっておきシネマ」、鳥飼美紀です。
今週ご紹介したのは、パリを舞台にして女性調香師の再起を描いた『パリの調香師』という作品です。

© LES FILMS VELVET – FRANCE 3 CINÉMA

雇われ運転手のさえない男と、高級アパルトマンに住む女性調香師が出会ったことから始まる物語。
なれど……ラブストーリーではなく、言ってみれば「バディ(相棒)」という関係が相応しいかもしれません。
人生につまずいたふたりが、その出会いによって再び立ち上がり歩き出そうとする物語です。

© LES FILMS VELVET – FRANCE 3 CINÉMA

【STORY】
アンヌは、かつてディオールの香水“ジャドール”をはじめ数々の名作を作った天才調香師。
だが、仕事のプレッシャーなどが原因で、突如嗅覚障害になり地位も名声も失ってしまった。
4年後の現在、嗅覚が戻ったアンヌは、パリの高級アパルトマンでひっそりと暮らしている。
他人と関わりを持たず、企業や役所の地味な仕事だけを受ける普通の調香師として……。
一方、不器用だけれど人の良い運転手のギヨームは、現在離婚調停中。
娘の親権を得るため、安定した住居と仕事が必要なのに、交通違反が勤務先にバレて解雇寸前という崖っぷち状態。
そんなギヨームが運転手として派遣された先が調香師のアンヌだった。
気難しいアンヌに戸惑いながらも率直にものを言うギヨームは、少しずつアンヌの心を開いていく。
アンヌがギヨームにも匂いを嗅ぎ分ける才能があることに気付き、ふたりは衝突しながらも協力して仕事をこなしていくようになる。
やがてアンヌは、再び香水を作りたいという思いを強くするが……。

© LES FILMS VELVET – FRANCE 3 CINÉMA

【REVIEW】

たばこの銘柄やら薬やら、どんな微妙な匂い・香りも認識してしまう素晴らしい嗅覚の持ち主である調香師。
世の中には心地よい香りもあれば、ひどい悪臭もあるわけで……色々な香りを嗅ぎ分ける調香師の鼻と脳は、常に緊張状態なのだろう。
そういえば絶対音感のある人は、全ての音に音階を感じて日常生活でさえもかなりストレスを伴うということを聞いたことがある。
五感の研ぎ澄まされた人は、精神的にも繊細かつ敏感になってしまうのかもしれない。
そんな天才調香師アンヌを演じるのは、エマニュエル・ドゥヴォス。
数えきれないほどの映画賞に輝くフランスを代表する実力派女優である。
とても知的でシックなビジュアルなのに、声がとても可愛らしいのは、もしかしたら計算された声なのか?
というのも、その声によって、アンヌが“気難しい人間”というよりも、“人見知り”なのだという印象を受ける。
彼女は、いわゆる愛想笑いやお世辞が全く苦手な人で、当たり前のようにギヨームに運転以外の用事をじゃんじゃん言いつける。
ただそれは気難しいとか高慢だからということではなく、匂いの世界に引きこもっている世間知らずの女性というキャラクターなのだ。
そんなことを感じながら、私は珍しくこの主演女優の“可愛らしい声”に興味を持っってしまった。

© LES FILMS VELVET – FRANCE 3 CINÉMA

さて、調香師という仕事をフランスでは「ネ(nez)」(一流の鼻を持つ人)と言うそうだ。
トップブランドの香水に携わるなど、成功すればアーティストとしての扱いを受け、国の文化勲章を受ける調香師もいるとか。
その一方、ペットのトイレやシャンプー、洗剤など、名前が表に出ない地味な仕事に携わるケースも多いという。
そのどちらも経験する主人公のアンヌは、思わぬ出会いによって相棒となるギヨームに支えられ、再び香水を作ろうと前向きになるが……。
しかし、そう簡単にはハッピーエンドにならないのである。

ちなみに、アンヌが手掛けたという設定の「ジャドール」という香水を、皆さんはご存知だろうか?
ディオールの有名な香水で、カリス・ベッカーという調香師によって1999年に作られたもの。
フランス産とインド産のジャスミン、トルコ産ダマスクローズ、イランイラン、マグノリアとバニラが調合されているそうだ。
想像しただけでうっとりとしてしまいそうだ。
そのディオールの撮影協力や、エルメスの専属調香師クリスティン・ナーゲルのアドバイスなども、この作品に生かされているという。
何はともあれ、嗅覚の研ぎ澄まされた「調香師」が主人公の映画は珍しく、それだけに新鮮さを感じる作品である。

監督・脚本:グレゴリー・マーニュ
出演:エマニュエル・ドゥヴォス、グレゴリー・モンテル、セルジ・ロペス
2019年 フランス 101分
配給:アット エンタテインメント
parfums-movie.com
2021年1月15日(金)~シネ・リーブル梅田、1月29日(土)~シネ・リーブル神戸、京都シネマにて公開

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