毎週金曜日の夜9時からおおくりしているシネマ情報番組「とっておきシネマ」、鳥飼美紀です。
今週ご紹介したのは、「天国にちがいない」というパレスチナ映画。
2019年カンヌ国際映画祭で、特別賞と国際映画批評家連盟賞をW受賞しています。
とてもユニークかつ美しい作品で、ぜひともご紹介したい・・・と思い、選びました。
【STORY】
イスラエルのナザレで暮らす映画監督のスレイマンが、新作の企画の売り込みのため、パリとニューヨークを旅する物語。
旅立つ前のナザレでは、隣人のぶしつけな行動や、レストランでクレームをつける男たちの鋭い視線などは日常茶飯事のこと。
パリでは、美しい景観の中を戦車が走り、炊き出しに並ぶ大勢の人や救護されるホームレスを目の当たりにする。
また、ニューヨークでは、銃やバズーカ砲を持つ人々が買い物や散歩をしたりする姿などを目撃。
肝心の映画企画、パリでは「パレスチナ色が弱い」という理由であっけなく断られ、ニューヨークのプロデューサーから返ってきた言葉は「健闘を祈る」。
パリやニューヨーク、いかに遠くへ行こうとも、平和と秩序があるとされる街にいようとも、何かがいつも彼に故郷を思い起こさせる。
そして、スレイマンは再びナザレに戻り、いつもの日常が続いていく。
【REVIEW】
監督・脚本・主演は、エリア・スレイマン。
そうなのだ、この映画の主人公スレイマンは監督本人のことで、監督本人が演じている。
現代のチャップリンといわれ、独特のユーモアと豊かなイマジネーションで世界に衝撃を与えてきた名匠である。
スレイマンが行く先々で、様々な人間とその行動・ふるまいを見つめる目線には何の偏見もなく、まるで傍観者のように思える。
ほぼ無表情で、批判的な目で見たり、逆に好意的な感情も読み取れず、言葉さえ発しない。
スレイマンの発する台詞は、後半にたった二言のみである。
例外的に、パリで小鳥と触れ合うスレイマンの表情と、地下鉄で男に執拗に睨まれ慄くスレイマンに人間味を感じてホッとする。
ボーっと見ていると、半分ほど過ぎてはじめて「映画の売り込みに行っているのか!」と気づき、笑ってしまう。
そして、只々美しい映像が見どころとなっていて、一つ一つのシーンが絵葉書のようだ。
風景であれ、人物であれ、たとえばゴミ箱の周りにあふれ出ている空き瓶であれ……見事に美しく撮られている!
「過去の自分の作品が、パレスチナを世界の縮図として描くことを目指していたなら、この作品は世界をパレスチナの縮図として提示しようとしている」
この作品について、“監督としてのスレイマン”はそう語っているが、パレスチナが特別な場所ではなく、世界のどこでも似通ったことが起っているということなのか。
そうであれば、この『天国にちがいない』は、ユニークで、笑えて、美しく、そして深い作品に……ちがいない。
監督・脚本・主演:エリア・スレイマン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル タリク・コプティ アリ・スレイマン
2019年 フランス・カタール・ドイツ・カナダ・トルコ・パレスチナ 102分 配給:アルバトロス・フィルム/クロックワークス
https://tengoku-chigainai.com/
1月29日(金)~シネ・リーブル梅田、2月5日(金)~シネ・リーブル神戸で公開
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