毎週金曜日夜9時からおおくりしている「とっておきシネマ」、鳥飼美紀です。
今週ご紹介した作品は『ミアとホワイトライオン 奇跡の1300日』という、ドイツとフランスそして南アフリカの共同制作映画です。
少女とライオンの友情や家族の再生を通して、南アフリカで社会問題となっているトロフィー・ハンティングの一種“缶詰狩り”を描いたドラマ。
動物好きには堪えがたいテーマですが、世界を変えるために知らなくてはいけない現実を教えてくれる大切な作品だと思います。
【STORY】
ライオンファーム経営のために、家族と共にロンドンから南アフリカに引越した11歳のミア。
南アフリカでの生活に馴染めない日々が続く中、ファームにホワイトライオンのチャーリーが生まれる。
ミアは小さなチャーリーの世話をし、共に成長していくうちに、チャーリーと特別な友情で結ばれていく。
3年の歳月が過ぎ、チャーリーはファームにとっても観光客を呼べる重要な存在となっていた。
そんなある日、ミアは父親が隠していた信じがたい事実を知ることになる。
父親は、囲いの中で野生動物をハンティングする「缶詰狩り」の業者に、ファームで育てたライオンを売っていたのだ。
チャーリーの命を守るために、ファームから彼を連れ出すミア。
ミアとチャーリーは、ホワイトライオンにまつわる伝説が残るティムババツィ野生保護区を目指す。
【REVIEW】
フェンスの囲いに閉じ込められたライオンを殺すためだけに、世界中からハンターがやって来る。
もし、自分の親がそんな「缶詰狩り」という商売のために動物を飼育していると知ったら、子供はどう思うのか……。
多くのドキュメンタリー作品を手掛ける、ジル・ド・メストル監督のそんな思いからこの映画が生まれた。
動物研究家で保護活動家のケヴィン・リチャードソンが撮影に参加し、実際に3年を超える年月をかけて撮影されたという。
さて、テーマとなっている缶詰狩り(キャンドハンティング)とは何か?
トロフィー(獲物の角などから作られる狩猟記念品)や娯楽の獲得を目的とした狩猟形態を「トロフィー・ハンティング」という。
その中の一つで、人工的に繁殖させた(野生)動物を、囲いの中に放って狩猟するのが「缶詰狩り」なのだ。
その倫理性において、動物愛護団体だけではなく、同じハンターからも批判が集中し、南アフリカで社会問題となっている。
缶詰狩り、あるいはそれを含めたトロフィー・ハンティングは、なぜアフリカから消えないのか?
映画の中でミアの父親が語っているように、それが産業として確立しているからである。
南部アフリカでは、年間350億円以上の収益と、1700人以上の雇用機会が生み出されているという。
映画では、3年の歳月をかけてミアとホワイトライオンが共に成長していく様子が見てとれる。
CGなしで撮影された圧巻の映像は、手放しで称賛されるべきことではないかもしれない。
ライオンが生れた時から、子役たちは毎日ライオンとともに暮らし、スタッフたちも密接な関係を築いた……とはいえ、ライオンはライオンである。
撮影終盤には、スタッフが檻の中に入って撮影することになったそうだ(撮影の詳細は、公式サイトのプロダクションノートで!)
だが、もしミアとライオンの関係がCGで描かれていたなら、この作品が最も伝えたかったことは、はるかに薄らいでしまうだろう。
人間の欲望のために、動物を生ませ、育て、殺すという缶詰狩りは許せないと思う。
しかし、私たちが日常食べている牛や豚、鶏などもまたそれと同じ状況ではないだろうか。
この映画は、缶詰狩りに対する問題提起だけではなく、私たち人間と動物との関係を見つめなおす機会を与えてくれる作品として捉えたい。
簡単に答えが見つかる問題ではないが、世界で起こっていることをまた一つ知ることができるのは貴重なことではないだろうか。
ホッとするのは、制作チームが作った基金で、撮影終了後のライオンたちはケヴィン・リチャードソンの保護区で暮らしているということだ。
監督:ジル・ド・メストル
出演:ダニア・デ・ヴィラーズ、メラニー・ロラン、ラングレー・カークウッド ライアン・マック・レナン
ホワイトライオンのチャーリーはトールというライオンが演じている
2018年 フランス 98分 配給:シネメディア
https://miaandthewhitelion.jp/
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