毎週金曜日、夜9時からおおくりしている『とっておきシネマ』の鳥飼美紀です。
今週も、オススメ最新シネマを2本ご紹介しました。
まずは、モンゴルの大草原で暮らす若い夫婦の物語『大地と白い雲』という作品です。
【STORY】
どこまでも続く大地、空を流れる白い雲、羊は群れをなし、馬が草原を駆けぬける。
そんな内モンゴルに広がるフルンボイル草原に暮らす一組の若い夫婦。
夫のチョクトは都会での生活を望んでいるが、妻のサロールは今の暮らしに満足している。
外の世界へ思いを巡らせ、時々ふらりといなくなるチョクトに腹を立てながらも、彼を愛するサロール。
二人の心は何度もすれ違いや衝突を繰り返しながら、それでも草原での暮らしを続けていく。
そんなある冬の夜、二人は大切なものを喪失してしまう。
その日を境に、サロールと草原で生きる覚悟を決めたはずのチョクトだったが…。
【REVIEW】
内モンゴル出身の作家・漠月(モー・ユエ)の小説「放羊的女人」を原作に、ワン・ルイ監督が10年かけて映画化した作品。
モンゴルの大草原の四季が美しく雄大……ぐるり360度、見渡す限り地平線で遮るものが何もない。
日本では見ることができないような大自然の表情は、映画館のスクリーンでダイナミックに味わいたいと思う。
そんな映像から、大自然の厳しさはもちろん、自然と共存する遊牧民の日々の営みもリアルも伝わってくる。
なかでも、主人公のチョクトが颯爽と馬に乗って、長い棒で馬たちを整えていく馬追いのシーンは圧巻だ。
土煙を上げて走る群馬たちのもの凄い迫力と、チョクトのカッコよさ!
チョクト役のジリムトゥは「子供の頃から馬に乗って育っているので、特別なことではない。今も馬を飼っている」らしい。
このジリムトゥもサロール役のタナも遊牧民の家庭で育ったというから、都会と草原との間で揺れ動く心はわかりすぎるほどわかっているだろう。
チョクトとサロールが愛し合っているのは確かなことだが、価値観が違っていることに気付くことから歯車が狂っていく。
羊を売って、車を手に入れて、都会へ出かける夫の「外の世界を知りたい、視野を広げたい」という思いは理解できる。
妻の「故郷を離れたくない、羊を飼い、牛のミルクを絞り、自然と闘い、共存しながら草原で暮らしたい」…これも共感できる。
しかし二人の気持ちは平行線のまま、どうしても交わることができない。
その果てに妻のサロールが選んだ道を、私たちはどのように受け止めればいいのだろう……。
監督:ワン・ルイ
出演:ジリムトゥ、タナ、ゲリルナスン、イリチ、チナリトゥ、ハスチチゲ
2019年 中国 111分 配給:ハーク
https://hark3.com/daichi/
9月3日~テアトル梅田で公開中 来週9月24日~シネリーブル神戸で公開