毎週金曜日、夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週はカンヌ国際映画祭ほか世界中の映画祭が絶賛した〈秘密の恋〉の物語、『帰らない日曜日』をご紹介しました。
原作は、イギリスの作家グレアム・スウィフトの『マザリング・サンデー』(新潮クレスト・ブックス 翻訳:真野 泰)。
【STORY】
1924年、初夏のように暖かな3月の日曜日。
その日は、イギリス中のメイドが年に一度の里帰りを許される〈母の日〉。
しかしニヴン家で働く孤児院育ちのジェーンに帰る家はなかった。
そんな彼女のもとへ、秘密の関係を続けるシェリンガム家の跡継ぎ息子ポールから、誘いの電話がかかる。
ポールは幼馴染であるホプデイ家の令嬢エマとの結婚を控えていて、この日は両家にニヴン家も加わって前祝いの昼食会だった。
だが、彼は昼食会への遅刻を決め込み、誰もいなくなった屋敷の寝室でジェーンと愛し合う。
やがてポールは昼食会へと向かうが、ゆっくりとニヴン家に戻ったジェーンに思わぬ知らせがもたらされる。
時がたち、小説家になったジェーンは、彼女の人生を永遠に変えたその1日のことを振り返る──。
【REVIEW】
時代は、第一次世界大戦休戦から5年ほどたった1924年。
かつて、シェリンガム家には息子が3人、そしてジェーンの働くニブン家にも2人の息子がいた。
交流のあるこの2つの家に5人もいた息子が、今はポール1人のみになってしまった。
これは戦争がもたらした悲劇のひとつで、それゆえにポールの結婚は傷付いた家族にっとっての“希望”なのだ。
秘密の関係とはいえ、ジェーンという恋人がいながら、ポールはホブデイ家の令嬢エマと婚約。
もちろん、名家の後継ぎとメイドという身分違いの恋愛は実るはずもなく、それをわかっていながらのポールとジェーンの関係。
その日は、シェリンガム家もメイドが里帰りし、両親は一足先に昼食会場に出かけ、屋敷には誰もいない。
そこへジェーンを呼び出し愛し合うわけだが、とても美しく官能的なシーンがたっぷりと描かれる。
一方、昼食会に集まった3つの家の人々はポールの遅刻にやきもきしている。
当然、婚約者のエマも複雑な心境である。
これから2人の秘密の関係が明らかになりドロドロの三角関係が繰り広げられるのか?
そうなると使用人のジェーンは立場が弱く、悲恋に終わるのでは……と観ている方は先走る。
しかし、想像とは違う出来事が待ち受けていて、ジェーンの運命がこの日から一変することになるのだ。
ところで、メイドとお坊ちゃまの恋といえば、すぐに浮かんだのが『青いパパイヤの香り』(フランス・ベトナム合作 1993年)だ。
『青いパパイヤの香り』は身分違いの恋が実りヒロインの人生が変わるが、この『帰らない日曜日』のヒロインの人生も違う意味で大きく変わっていく。
ただ、どちらの作品にも共通するのは、虜(とりこ)になってしまいそうなほどの強烈な映像美である。
本作の原題は「マザリング・サンデー」、邦題タイトルが「帰らない日曜日」である。
〈母の日〉にほとんどの屋敷のメイドが里帰りするのに、孤児のジェーンは帰らない……という意味のタイトルかと思っていた。
しかし、ラストまで観てふと気づく。
人生を一変させたあの日曜日は帰ってこない……そういう意味なのではないか。
ぜひとも原作を読んでみたい作品である。
監督:エヴァ・ユッソン
製作:エリザベス・カールセン、スティーブン・ウーリー『キャロル』
出演:オデッサ・ヤング ジョシュ・オコナー コリン・ファース オリヴィア・コールマン
2021年/イギリス/104分/配給:松竹
https://movies.shochiku.co.jp/sunday/
5月27日(金)大阪ステーションシティシネマ、なんばパークスシネマ、MOVIX京都ほかにて全国公開