金曜夜9時からおおくりしている、最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週ご紹介した作品は、著名な監督であり脚本家でもあるデンマークのヨアキム・トリアー監督の『わたしは最悪。』という作品です。
昨年の第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で、主演のレナーテ・レインスヴェが女優賞を受賞。
そして、今年の第94回アカデミー賞では、国際長編映画賞と脚本賞の2部門にノミネートされた恋愛ドラマです。
恋愛映画、少々苦手なわたくし鳥飼も納得の面白い作品で、原題は『The Worst Person in the World』=世界最悪の人間⁉
【STORY】
芸術の都、ノルウェーのオスロが舞台。
学生時代は成績優秀で、アート系の才能や文才もあるのに、「これしかない!」という決定的な道が見つからず、いまだ人生の脇役のようなユリヤ。
そんな彼女にグラフィックノベル作家として成功した年上の恋人アクセルは、妻や母といったポジションをすすめてくる。
ある夜、招待されていないパーティに紛れ込んだユリヤは、若くて魅力的なアイヴィンに出会う。
新たな恋の勢いに乗って、ユリヤは今度こそ自分の人生の主役の座をつかもうとするのだが──。
【REVIEW】
この物語は、ユリヤの20代半ばから30代初めにかけての数年間を、まるで本のように12の章に分けて描かれている。
成功した年上の恋人と過ごす日々を、「幸せ」だと思っていたユリヤが、ふと「これは望んでいた自分なのか?」と自分に問いかける。
恋人アクセルに「自分探しの年頃だ」と指摘されていた彼女は、自分を探し求めると同時に、自分を変えられると信じて新しい恋に走り出す。
けれど、そうは簡単に自分も人生も変わらないということに、若いユリヤは気づかない。
アクセルから若いアイヴィンへと、明確にユリヤの心が移ってしまうシーンが印象に残る。
以前、同じようなシーンを台湾映画で見た記憶があるが、“時間”あるいは“瞬間”を上手く使った面白い表現だ。
トリアー監督は、こんな人生を送りたいという夢と、実際はこうなるという現実に、折り合いをつけるというストーリーだと言う。
実際、世の中のほとんどの人が、理想と現実にそれこそ“折り合い”をつけて生きているのではないだろうか。
時々、私も思う。
あぁ、自分は何者にもなれなかったと。
でも、多くの人と出会い、笑って泣いて、ささやかな幸せを感じて、まずまずの人生ではないか?とも思う。
折り合い……ほどほど……まずまず……という、ゆるい言葉もそう悪くない。
さて、ユリヤは対照的な2人の男性との恋愛を通して、どんなふうに成長し、どんなふうに自分の人生に折り合いをつけるのか。
監督:ヨアキム・トリアー
出演:レナーテ・レインスヴェ アンデルシュ・ダニエルセン・リー ハーバート・ノードラム
2021年/ノルウェー・フランス・スウェーデン・デンマーク合作/128分/R15+/配給:ギャガ
https://gaga.ne.jp/worstperson/
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