金曜の夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週のとっておきの1本は、韓国映画『キングメーカー 大統領を作った男』。
最高権力の座を目指して戦い、負ければ汚職や不正行為を問われて刑務所入りになることもある韓国の大統領選挙。
実話をベースに作られた、まさに生き馬の目を抜く苛烈な闘いを描いた衝撃の選挙サスペンスです!
【STORY】
長きにわたる独裁政権の打倒を目指す政治家キム・ウンボム。
そして、その理想に共鳴した影のブレーン、ソ・チャンデ。
現職の大統領率いる与党と比べてカネもなければ人脈もない、ないないづくしのウンボム陣営のために、チャンデは大胆な戦略に打って出る。
それはネガティブキャンペーンから詐欺まがいの贈賄工作まで、勝つためにはどんな手段も辞さない汚いやり口。
強大すぎる敵を倒すためには毒をもって毒を制するしかない。
チャンデの覚悟はある爆破事件を引き起こし、それが原因でウンボムとチャンデの共闘関係に最大のピンチが訪れる――。
【REVIEW】
光の当たる表の存在であるカリスマ政治家、キム・ウンボム。
理想と情熱にあふれた野党・新民党所属の政治家だが、四度の落選の後に戦略家のソ・チャンデに出会い、立て続けに選挙で当選、党を代表する大統領候補にまで上り詰める。
しかし、チャンデの勝つためになりふり構わない戦略に、徐々に理念の違いを感じ葛藤するウンボムに、韓国の名優ソル・ギョングが扮する。
影の存在に徹して裏の仕事を引き受ける、ソ・チャンデ。
何度も落選する政治家ウンボムの前に現れ、新たな選挙戦略を提示するし、誰も思いつかない奇抜な方法と選挙戦の先を読む明晰さでウンボムの参謀として活躍。
このチャンデは、『パラサイト 半地下の家族』に出演したイ・ソンギュンが演じる。
見どころは、やはり男同士の信念の激突だろう。
目的は一つ、「選挙に勝つこと」。
その目的のために理想を掲げ情熱を傾け、人々の心を掴むか。
その目的のためには手段を択ばず、とにかく勝つための策略を張り巡らすか。
誰よりもお互いを必要としながらも、決定的なところで混じり合わない2人の複雑な関係……。
生き馬の目を抜く苛烈な闘いが繰り広げられる、韓国の大統領選挙を描いた衝撃作。
今年5月、保守系の最大野党のユン・ソンニョル氏が当選し、政権交代した韓国の大統領選挙は記憶に新しい。
国民が直接投票する韓国と違い、日本は国会議員によって間接的に選ばれる総理大臣が政治のトップ。
だから、トップを選ぶ“熱”は韓国と日本ではかなりの温度差があるように思う。
しかしこの映画を観ると、選挙というものはきれいごとだけでは勝てないし、勝たなければ思い描いた政治はできない……という現実は日本も韓国も同じ。
日本では選挙に勝つために特定の宗教団体の力を借りたとか借りないとか、連日報道されている今だけに特にリアル感がある。
この映画で描かれるエピソードの多くは、日本とも縁の深い第15代韓国大統領・金大中氏と、彼の選挙参謀だった人物の実話がベースとなっている。
「まさか」と思うような荒唐無稽な展開も、ほとんどが現実にあったことだというから凄まじい。
劇中で描かれるのは60年代の選挙戦で、実際の金大中氏は、その後に拉致事件・死刑判決・亡命などを経て98年にようやく大統領に就任した。
太陽政策を推し進め在任中にノーベル平和賞を受賞するが、息子たちの金銭スキャンダルが発覚し、03年の任期終了をもって政界を引退している。
73年の拉致事件の現場が日本(東京のホテルから韓国中央情報部により拉致・韓国で軟禁状態)だったことで、当時高校生だった私も金大中という名前と拉致事件は記憶にある。
あの拉致事件の前に、映画に描かれている激しい選挙戦があったことを知り、まさにどこの国も政治は命がけだと感じてしまう。
関西で上映される映画館は少ないが、興味のある方はぜひご覧いただきたい。
監督:ビョン・ソンヒョン
出演:ソル・ギョング イ・ソンギュン
2021年/韓国/123分/配給:ツイン
https://kingmaker-movie.com/
8月12日(金)~全国順次ロードショー
関西では、8月12日~京都シネマ 8月13日(土)~神戸元町映画館 9月16日(金)~宝塚シネ・ピピアで公開