今週は、京都下町で愛される実在カフェを舞台に、“人生のやり直し”を温かに描いた『事実無根』という作品をご紹介します。タイトルの硬さからイメージする内容とはちょっと違う、事実無根の過去に翻弄されながらも「壊れた人生の欠片」を探す人々の、泣き笑い群像劇です。映画そのまんまの景色が見られる実在の「そのうちカフェ」さん、ぜひネット検索してみてください!

© 一粒万倍プロダクション
【シネマエッセイ】
20代の初め、通勤のバスで中学時代の友人と偶然再会した。乗り継ぎの電車まで少し時間があったので、友人の行きつけの喫茶店に寄り昔話に花を咲かせた。「キャラバン」という名のその店は、優し気なマスターと陽気なママが営む小さな喫茶店。出勤前のわずかな時間にモーニング珈琲を楽しむ客が、絶え間なく入れ替わっていく。ママは客の名前をすべて憶えていて、ドアを開けると「おはよう、〇〇さん!」、店を出る後ろ姿には「行ってらっしゃーい、□□くん!」などと声をかける。ちょうど失恋したばかりだった私も初日から「ミキちゃん」と呼ばれ、アットホームな雰囲気が居心地よく、その日から常連になった。朝は通勤通学の会社員や学生が多く、午後は周辺の飲食店の従業員などが一服しに、そして夜は帰宅前に立ち寄る会社員などで賑わう。そのうち客同士も顔見知りになり、一人でフラっと入っても常連の誰かがいるので、手持無沙汰にならないという安心感があった。常連客を集めてクリスマス会をしたり、貸し切りバスで遠足というイベントもあり、常連客同士で結ばれたカップルも……。今思えば、常連客はみんなそれぞれに寂しい気持ちがどこかにあって、人との心地よい関りを求めて来店していたように思える。マスターもママも深入りはせず、ちょうどよい距離感でお節介を焼いてくれる“憩いの場”だったが、昭和が終わって少し経った頃、ふいに店を閉めてしまった……。
さて今回の『事実無根』と言う映画は、京都に本当にある小さな喫茶店(今風に言うとカフェ)が舞台になっている。「そのうちカフェ」という店名が素敵だ。映画の中では、目の前にある公園で遊ぶ子どもたちが時々紫蘇ジュースを飲ませてもらったり、元刑事が認知症の妻を伴って来たり、店でバイトをしていた青年の父親が律儀に通ってくる……このカフェも人々の“憩いの場”なのである。実在のカフェと知ったからには一度訪れてみたい。ただし、常連になるには三田と京都では遠すぎるが……。

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鳥のさえずり、子供の笑い声。京都・下京区にある小さな公園のとなりに佇む「そのうちカフェ」は、地元の憩い場。マスターがひとりで切り盛りしてきたが、 利き手を骨折しアルバイトを雇う事になった。採用された大林沙耶は、高校を卒業したばかりで不器用を絵に描いたような性格。しかし一生懸命かつ異様なほど几帳面に働く。そんな沙耶を公園から覗き見る男がいる事に気付いたマスター。問いただせば、この男は沙耶の元義理の父親で、セクハラの冤罪で大学教授の職を追われホームレスになってしまったという……。

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監督:柳 裕章
出演:近藤芳正 村田雄浩 東 茉凜 武田 暁 西園寺章雄 和泉敬子 仲野 毅
2023年製作/99分/G/日本
配給:MomentumLabo.
https://jiji2mukon.com/
7/5(土)~元町映画館
7/19(土)~第七藝術劇場
7/25(金)~京都シネマにてアンコール上映
上映劇場は公式サイトでご確認ください。