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【とっておきシネマ】 『パラレル・マザーズ』&『ヒューマン・ボイス』

金曜の夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週は、11月3日に同時公開されるスペインのペドロ・アルモドバル監督の作品2本をご紹介しました。
どちらも主人公は女性ですが、長編と短編そしてテイストも全く違う作品なので、併せてご覧いただくと面白いですよ。

まずは『パラレル・マザーズ』
ワールドプレミアとなった第78回ヴェネツィア国際映画祭で、主演のペネロペ・クルスが最優秀女優賞を受賞しています。

© Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

【STORY】
フォトグラファーのジャニスと 17 歳のアナは、出産を控えて入院した病院で出会う。
共に予想外の妊娠で、シングルマザーになることを決意していた二人は同じ日に女の子を出産し、再会を誓い合って退院する。
だがジャニスは娘と対面した元恋人から、「自分の子とは思えない」と告げられる。
そして、ジャニスが踏み切ったDNA テストによって、娘が実の子ではないことが判明する。
アナの娘と取り違えられたのではないかと疑ったジャニスだったが、激しい葛藤の末、この秘密を封印し、アナとの連絡を絶つことを選ぶ。
それから 1 年後、アナと偶然に再会したジャニスは、アナの娘が亡くなったことを知らされる──。

© Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

【REVIEW】
ジャニスとアナは、同じ日に同じ病院で女の子を産み、どちらもシングルマザーという同じ境遇。
何事もなければ、良きママ友になれたはずなのだ。
子どもを取り違えられたかもしれないという、想像だにしなかった事実を突きつけられたジャニス。
しかも偶然再会したアナから、自分の本当の子どもかもしれないアナの娘が亡くなったと知らされる衝撃。
ジャニスは苦悩の末に、何も知らないアナにあることを提案する。
その提案をアナも受け入れるが……さぁ、ここからは想像とは少し違った展開になるのが興味深い!

© Remotamente Films AIE & El Deseo DASLU

そして、並行して描かれるのが、1930年代のスペイン内戦時代に犠牲となった人々の遺骨を掘り起こして埋葬するという計画だ。
ジャニスの曽祖父の遺骨もその中にあるはずと、母親代わりだった祖母から思いを託されたジャニス。
振り返れば、その使命を果たそうと行動したことがきっかけで彼女は“母”になったのだった。
先祖から繋がってきた生命の絆と、偶然で繋がったジャニスとアナの運命が、深く多様な世界観を感じさせる作品である。

監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:ペネロペ・クルス ミレナ・スミット イスラエル・エレハルデ
2021/スペイン・フランス/スペイン語/123 分/配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ
https://pm-movie.jp/

★『パラレル・マザーズ』の鑑賞券(ムビチケ)を2組4名様にプレゼントします!

応募締め切りは10月31日。

ご応募はこちらから⇒https://fm822.com/archives/39530

そして、同日公開されるペドロ・アルモドバル監督のもう1本は、30分の短編映画『ヒューマン・ボイス』

© El Deseo D.A.

この作品は、1930年に発表されたフランスのジャン・コクトーの戯曲『人間の声(La Voix humaine)』を、アルモドバル監督が自由に翻案したものです。
所々に戯曲の匂いが漂う面白い作品で、個人的にはとても心惹かれました。

【STORY】
1人の女が、元恋人のスーツケースの横で、ただ時が過ぎるのを待っている。
(恋人はスーツケースを取りに来るはずが、結局姿を現さない)
また、そこには、主人に捨てられたことをまだ理解していない落ち着きのない犬がいる。
捨てられた人間と犬。
女は待ち続ける3日間、1度しか外出しない。
そして、その外出で斧と缶入りのガソリンを買ってくる。

© El Deseo D.A.

【REVIEW】
この作品のポスターには、斧を振り上げる赤いドレスの女性と、色々な種類の工具のようなものがデザインされている。
怖い結末が待っているのではないか……と恐ろしい。
30分の短編作品なので、ここが見どころ~と語り始めると全てを物語ってしまいそうだが、多々ある見どころの中で1つだけ上げるとしたら、鮮やかな色彩だろう。
冒頭の赤いドレスのインパクトから、一転して黒いドレスの不吉な雰囲気、主人公が纏う日常のファッションの色合いなどが鮮烈。
そして、壁に飾られた艶麗な絵画、見たことのない形のシャワー、キッチンに貼られたモダンなタイルなど、彼女が暮らす部屋のインテリアはとても印象的だ。
ただ、観ている私たちはあるシーンで何かに気づく……実はこの部屋は……いや、これ以上語るのはやめておくことにしよう。

© El Deseo D.A.

主演のティルダ・スウィントンというイギリス人女優の一人芝居の演技が、まことに素晴らしい。
帰らない恋人を待ち焦がれ狂気すれすれに切羽詰まった女が、斧とガソリンを買うのは……何のため?
ジャン・コクトー原作の主人公の女は男に従順なタイプらしいが、この映画の女は監督による現代女性の理解に基づいているという。
私たちの生きる現代では、コクトーの時代に比べ、あきらかに女性は自立しプライドも確立されているのだ。
狂気に至りそうなほど男を愛してはいるが媚びるほど依存はしていないという、強い女あるいは強くあろうとする女を、ティルダは見事に演じている。
さて、この物語のラストシーンをあなたはどう解釈するのだろう?
その答えが一つではないところが非常に面白く、思わず唸ってまう実験的作品なのだ。

監督:ペドロ・アルモドバル
原作:ジャン・コクトーの戯曲『人間の声(La Voix humaine)』
出演:ティルダ・スウィントン アグスティン・アルモドバル ダッシュ(犬)
2020/スペイン/英語/30 分/配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ
★『ヒューマン・ボイス』特別料金:800円均一
『パラレル・マザーズ』&『ヒューマン・ボイス』は、11月3日(金)~アップリンク京都 シネ・リーブル梅田 kino cinema 神戸国際などで同時公開
公式サイト⇒https://pm-movie.jp/

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