金曜の夜9時からおおくりしている最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週のとっておきの1本は、「アラジンと魔法のランプ」をモチーフにした『アラビアンナイト 三千年の願い』という作品です。
3000年もの間、瓶の中に幽閉されていた孤独な魔人と、見果てぬ夢を追い求める女性学者とが織りなす、時空を超えた魂の旅の物語。
英国のA・S・バイアットの短編小説「The Djinn in the Nightingale’s Eye」が原作、映画『マッドマックス』シリーズのジョージ・ミラー監督の最新作です。
【STORY】
古今東西の物語や神話を研究するアリシアは、 講演のためトルコのイスタンブールを訪れた。
バザールで美しいガラス瓶を買い、ホテルの部屋に戻ると、中から突然巨大な魔人〈ジン〉が現れた。
意外にも紳士的で女性との会話が大好きという魔人は、 瓶から出してくれたお礼に「3つの願い」を叶えようと申し出る。
そうすれば自分にかけられた呪いが解けて自由の身になれるという。
だが物語の専門家アリシアは、その誘いに疑念を抱く。
願い事を叶える……という物語はどれも危険でハッピーエンドがないことを知っているのだ。
魔人は彼女の考えを変えさせようと、 紀元前からの3000年に及ぶ自分自身の物語を語り始める。
そしてアリシアは、魔人も、さらに自らをも驚かせることになる、 ある願い事をするのだった……。
【REVIEW】
2017年のアカデミー賞受賞作であるギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』を思い出す。
機密機関で清掃員として働く孤独な女性と、その職場に運び込まれた「半魚人」との心の通じ合いを描いた物語だ。
この「アラビアンナイト 三千年の願い」の主人公アリシアも、傍目から見ると孤独な女性ではある。
しかし本人は寂しいとも不幸とも思わず、“幸せなひとりぼっち”と、自身を表現しているのが清々しい。
瓶の中から突然現れた魔人に、知的で冷静なアリシアは驚きはすれど取り乱すことはない。
「目を閉じて3つ数えるから、その間に消えてくれたら嬉しい」と言うアリシア。
されど魔人は消えず、「瓶から出してくれたお礼に、3つの願いを叶える」と……。
どうやら、その願いを叶えないことには魔人は自由になれず、再び瓶の中で過ごさなければならないらしい。
しかし、「願い事を叶える」という物語にはたいてい約束事があり、それを破ってしまったがために不幸になるという結末が多い。
それは、物語の研究をしているアリシアにはよくわかっていることで、まして“幸せなひとりぼっち”である彼女に願い事や欲望は元々無いのだった。
あれこれ押し問答をしているうちに、魔人が瓶の中に閉じ込められていた自身の3000年の物語を語り始め、アリシアも我々観客もその世界に誘われる……。
魔人の語る物語は、神秘的でゴージャスな絵本の頁をめくるような気分にしてくれるが、その内容は劇場でたっぷり味わっていただきたい。
後半に入ってからのアリシアの心の変化は、演じるティルダ・スウィントンの艶のある巧みな演技によって表現される。
また、他愛もないことだが、アリシアがパソコンを指1本で入力するシーンを見逃さないでほしい。
クールで知的、硬質なイメージのティルダ演じるアリシア……だからこそのチャーミングなシーンである。
そしてチャーミングと言えば、3000年の孤独を過ごした魔人役のイドリス・エルバの綺麗な目も印象的だ。
魔人とアリシア、孤独だったふたりの後姿をラストシーンで味わいながら、「これは、ラブストーリーだったのだ」ということに気づいた。
たとえ、それがアリシア自身の果てない空想が紡いだ物語だったとしても……。
監督・脚本:ジョージ・ミラー
原作:A・S・バイアット「The Djinn in the Nightingale’s Eye」
出演:イドリス・エルバ ティルダ・スウィントン
2022年/オーストラリア・アメリカ合作/108分/配給:キノフィルムズ 提供:木下グループ
https://www.3wishes.jp/
2月23日(木・祝)~全国公開
関西では、TOHOシネマズ梅田 キノシネマ神戸国際 TOHOシネマズ西宮OSなどで上映