金曜の夜9時からおおくりしている、最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週は久々に日本映画をご紹介しました。
同調圧力、格差社会、貧困など、現代日本が抱える問題を藤井道人監督が描いたヒューマン・サスペンス『ヴィレッジ』です。
物語の舞台となる村の全景が、京都府中部に位置する集落「かやぶきの⾥」でのロケーション。
そして、そこに漂う霧がこの映画のビジュアルテーマとなっていて、日本最古の伝統芸能である「能」からのイメージだそうですよ。
©️2023「ヴィレッジ」製作委員会
【STORY】
美しいかやぶき屋根が並ぶ⼭あいの霞⾨（かもん）村。
山の上には、のどかな景観に似つかわしくないゴミ処理施設がそびえ立つ。
そこで働く作業員の優は、職場と家を往復するだけの毎⽇を過ごしている。
仕事中は村⻑の息⼦である透にいびられ、わずかな給料も⺟親がギャンブルで作った借⾦の返済に消えていく。
かつて⽗親がこの村で起こした事件の汚名を背負い、その罪を肩代わりするようにして⽣きてきた優には、⼈⽣の選択肢などなかった。
そんなある⽇、7 年前に村を出て⾏った幼馴染の美咲が村に帰って来て、優の人生が大きく変わっていく……。
©️2023「ヴィレッジ」製作委員会
【REVIEW】
監督・脚本は藤井道⼈。
代表作は、⽇本アカデミー賞に輝いた『新聞記者』（19）。
その後、『宇宙でいちばんあかるい屋根』（20）、『ヤクザと家族 The Family』（21）、『余命 10 年』（22）と話題作が次々に公開された。
それぞれ全く違った彩りの作品で、同じ監督の作品とは思えない。
©️2023「ヴィレッジ」製作委員会
運命に抗い、負のスパイラルから脱け出そうとする主⼈公・優を演じたのは横浜流星。
優に⽣きる意味と希望を与え、彼と共に⾃分の⼈⽣を取り戻そうとする美咲には⿊⽊華。
そのほか古⽥新太、中村獅童、⼀ノ瀬ワタル、⽊野花、杉本哲太、西田尚美など、個性豊かなキャストが集結。
なかでも、台詞はラスト近くのワンシーンだけ～という木野花の化けっぷりがとんでもない。
代々村長を務める一族のゴッドマザーに扮する特殊メイクが凄すぎて、しばらくは誰だか分らなかった。
ほぼ寝たきりで何も喋らないのに、とてつもない存在感があり、何もかも見透かされている気がして、ある意味怖い。
©️2023「ヴィレッジ」製作委員会
物語の舞台・霞⾨（かもん）村には古くから伝わる⼟着の能がある。
ストーリーの中で、能の演目「邯鄲（かんたん）」が村の能舞台で上演される。
「邯鄲」は、唐の時代、⼈⽣に迷った⻘年が、仏道に悟りを求めて旅に出る。
その道中に泊まった宿で、⼥主⼈に勧められた「邯鄲の枕」で寝ていると、皇帝の勅使が迎えに来て、青年を宮殿に連れて⾏く。
青年は皇帝の位を譲り受け、この世の栄華を謳歌し、⽉⽇が瞬く間に過ぎ、在位 50 年を祝う宴席で不⽼⻑寿の薬と⾔われる酒に酔いしれる。
ところが、⽬を覚ますと宿の⼥主⼈が起こしに来る……という、すべては“束の間の儚い夢”という話。
まさに、主人公・優の人生そのものである。
©️2023「ヴィレッジ」製作委員会
この「邯鄲」の現実と夢というテーマが、伏線ともいえる役割を果たしている。
どこにも居場所を⾒つけられずに⽣きてきた⻘年が、束の間見た夢から醒める絶望感、あるいはやっと見つけた居場所から転がり落ちていく無力感。
その一部始終を見て、多くの観客はやり切れない思いを抱くだろう。
私も主人公に対して「なぜ？」という憤りを伴った疑問を抱いたが、しかし、わからないことは人生に山ほどあるのだ。
やりきれない思いが残る作品ではあるが、個人的にはそんな作品にこそリアリティがあると思っている。
「今までに⾒たことがない横浜流星でないと意味がない」という監督の言葉。
私は横浜流星の映画は初めてなので過去の作品とは比べようがないが、ファンならば彼の演技にまた新たな魅力を感じるに違いない。
監督・脚本：藤井道人
出演：横浜流星 ⿊⽊華 中村獅童 古⽥新太 杉本哲太 ⻄⽥尚美 ⽊野花ほか
2023年製作／120分／PG12／日本／配給：KADOKAWA、スターサンズ
https://village-movie.jp/
4月21日(金) 全国公開
関西では、TOHOｼﾈﾏｽﾞ梅田 109ｼﾈﾏｽﾞHAT神戸 TOHOｼﾈﾏｽﾞ西宮OSなど。
