今週のとっておきの1本は、10月4日(金)全国公開のインド映画『花嫁はどこへ?』。
つい先日、第97回米アカデミー賞®国際長編映画賞インド代表作品に選ばれたとのニュースが入ってきました。同じ赤いベールで顔を隠した二人の花嫁が、たまたま同じ満員列車に乗り合わせ、あろうことか入れ替わってしまうというお話です。インド映画なのに、今回はミュージカル風の歌&ダンスはありません。でも、ユーモアはたっぷりですよ!
~シネマエッセイ~
1971年、大阪万博後の元気だった頃の日本に、こんなフォークソングが流行った。♪花嫁は夜汽車に乗って、嫁いでいくの~。はじだのりひことクライマックスというバンドの「花嫁」という曲である。当時中学生だった私は、その曲を聴くたびに、白いウエディングベールをつけた髪の長い女性が、列車に乗って愛する人の待つ遠くの駅まで旅をする幸せな映像を頭の中に描いていた。ところが最近になって、あらためて歌詞を読んでみたら、「帰れない、何があっても」「何もかも捨てた」などという、ちょっと重めの覚悟が散りばめられている。どうやら、駆け落ちの歌らしい。周囲の反対を押し切って、何もかも捨てて夜汽車に乗って嫁いでいくから、何があっても帰れない……のだそうだ。そんな重い歌詞なのに軽やかなメロディ……というギャップが、もしかしたらこの歌の魅力かもしれない。
インド映画『花嫁はどこへ?』という映画は、花嫁が夜汽車ではなく満員列車に乗って嫁いでいくシーンから始まる。花婿は駅で待っているわけではなく、結婚式場から花嫁と共に列車に乗り自分の家族が待つ家に帰るのだ。その日は大安吉日で、列車の中には全く同じ赤い花嫁ベールで顔を隠した女性が何人もいて、ちょっとしたことから花嫁が入れ替わってしまうというアクシデントが起きる。花嫁を連れて帰ったはいいけれど、ベールを上げたら、全く知らない女性だった……。さぁ、どうする? どうなる?
インドでは、家同士で決める結婚が現代でも一般的だという。結婚は本人だけの結びつきではなく、コミュニティ内でその先も生きていくためにほとんどの人が親の決めた相手と結婚するらしい。ある意味、「何があっても帰れない」のだ。自分だけの意志で結婚をご破算にはできない。映画の中で入れ替わってしまった二人の花嫁、プールとジャヤも「とりあえず、実家に帰る」という選択をしないので、騒動がなかなかおさまらない。その顛末をユーモラスに描きながら、二人の花嫁が、それぞれの体験の中で〈自分の人生を人任せにしない〉ことが幸せになる道だと悟っていく。そして、周りの女性たちの心の中にも〈自分らしい生き方を考える〉という小さな灯が点るのだ。
それにしても、よその国の文化は興味深い。インドの結婚にまつわるあれこれは、驚くことばかり。親の決める結婚がスタンダード、花嫁の持参財を自慢するやりとり、花嫁衣裳のまま列車で嫁ぐ、自分の夫の名前を公言するのはタブー……などなど。最初から最後まで、興味深いシーンがあれこれ描かれた後に訪れるハッピーエンド! ぜひ観ていただきたい。
2001 年、とあるインドの村。プールとジャヤ、結婚式を終えた 2 人の花嫁は同じ満員列車に乗って花婿の家に向かっていた。だが、たまたま同じ赤いベールで顔が隠れていたことから、プールの夫のディーパクがかん違いしてジャヤを連れ帰ってしまう。置き去りにされたプールは内気で従順、何事もディーパクに頼りきりで彼の家の住所も電話番号もわからない。そんな彼女をみて、屋台の女主人が手を差し伸べる。一方、聡明で強情なジャヤはディーパクの家族に、なぜか夫と自分の名前を偽って告げる。果たして、2 人の予想外の人生のゆくえは──?
監督:キラン・ラオ
出演:ニターンシー・ゴーエル プラティバー・ランター スパルシュ・シュリーワースタウ ラヴィ・キシャン チャヤ・カダム
2024 年/インド/ 124 分/配給:松竹
© Aamir Khan Films LLP 2024
https://movies.shochiku.co.jp/lostladies/
2024年10月4日(金)
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋ほか全国公開
【鳥飼美紀のとっておきシネマ】への感想やメッセージはこちらにどうぞ♪