今週のとっておきの1本は、2018年に公開された映画『ワンダー 君は太陽』のアナザーストーリー『ホワイトバード はじまりのワンダー』です。前作「ワンダー」で主人公をいじめて学校を退学になった少年ジュリアンと、その祖母サラにスポットを当てた物語。祖母が孫を希望に満ちた未来へと導くために、自ら封印していた“衝撃の過去”を告白するヒューマンドラマです。自分の命を危険にさらしてまで他人を助けられるか……そんな勇気ある優しさの物語。
~シネマエッセイ~
あれは何年前の冬だっただろう。カニを食べに城崎への日帰り旅行をしたことがある。その年はけっこう日本海側で雪が降っていた。駅から食事会場の旅館まではおそらく雪の道を歩いて行くことになると予想して、新たにゴム底のブーツを購入した。当時、若い女の子の間で流行っていたムートンのペタンコ底のブーツである。ファーも付いている。一度履いてみたいと思ってはいたものの、年齢的にはいささかハードルが高かったのだが、「雪道に備えて」という大義名分ができたのだ。履いてみると、“ちょいと可愛い”おばちゃんになり、カニ旅行の日が待ち遠しかった。ところが、それから当日まで好天気が続き雪は降らず、「雪道」という大義名分が使えなくなった。若作りと思われたくないので、仕方なく普通のおしゃれブーツで出かけることになった。温泉街の雪道をあの可愛いブーツでキュッキュッと音を立てて歩きたかったなと、心残りのカニ旅行であった。
映画『ホワイトバード はじまりのワンダー』では、主人公のサラという女の子が、ある日学校へ行こうとすると父親から「今日は冬用のブーツを履いて行きなさい」と言われる。父親はその日に何かを予感していたのだろう。しかし、彼女は冬用のブーツではなくこっそり赤い靴に履き替えて登校してしまう。「してしまう」と書いたのは、サラはその日、その赤い華奢な靴で学校を飛び出し雪の道を走って逃げることになるからである。そして長い期間、納屋で息をひそめて生きていくことになるのだった……。
いじめによって学校を退学処分になったジュリアンは、転校してからも自分の居場所を見失っていた。そんな中、画家として世界的に活躍しているジュリアンの祖母のサラがパリから訪ねて来る。あの経験で学んだことは、「人に意地悪もやさしくもしない。ただ普通に接することだ」と孫の口から聞いたサラは、「あなたのために話すべきね」と自らの少女時代を明かす……。
監督:マーク・フォースター
脚本:マーク・ボムバック、R.J.パラシオ
出演:アリエラ・グレイザー、オーランド・シュワート、ブライス・ガイザー、ジリアン・アンダーソン、ヘレン・ミレン
2024年/アメリカ/121分/配給:キノフィルムズ
© 2024 Lions Gate Films Inc. and Participant Media, LLC. All Rights Reserved.
公式サイト:https://whitebird-movie.jp
12月6日(金)TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー公開
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