明けましておめでとうございます。
2025年も「鳥飼美紀のとっておきシネマ」をどうぞよろしくお願いします。
さて新年最初にご紹介する映画は、養子に出された娘が大人になって実の家庭に戻って過ごした3日間の物語。中国の山村に住む人たちの伝統的な家庭観念と状況を反映した作品です。どんな状況に置かれても、心に折り合いをつけて、前向きな人生にしたいですね。
~シネマエッセイ~
私はよく鼻歌を歌っているらしい。その日最初に耳にした曲や大好きなサザンナンバーなどが四六時中ずっと頭の中で流れていて、無意識に口ずさんでいるようだ。「ご機嫌ですね」などと言われる。その昔、職場の休憩時間に、あるメロディをハミングで口ずさみながらスマホをいじっていた。すると、若い同僚(ほぼ親子ほど歳が違う)が「その曲は?」と聞く。思い出せない。少女時代にテレビドラマで聴いた曲のような気がするが、なぜその曲を口ずさんでいるのかも自分ではわからない。ただ口を衝いて出てきたのだった。少し心が疲れていたのだろうか、昭和チックな優しく郷愁を誘うようなメロディだった。すると、職場の他の同僚たちも「何々?」と集まって来る。私は、あらためて皆の前でそのメロディをハミングで披露した。若い人は「初耳」と言い、私と同世代の人は「聴いたことがある」とは言うものの、タイトルまではわからない。そうなるとその場にいる全員がモヤモヤとしてくる。何としてもはっきりさせたい。それから数日が経って、ついにテレビドラマ『サインはV』の挿入歌と判明! ある同僚の子どもさんがスマホのアプリに向かって歌うと曲名が出てくると教えてくれたのだ。便利な世の中になったと皆で感激したものだ。
さて、それから8年ほどが過ぎたついこの間のこと。今回の映画『夏が来て、冬が往く』の試写を観た。養子に出された主人公が、海を見晴らす高台の生家のテラスでハーモニカを吹く終盤のシーンが心に残る。有名な曲なのに加齢のせいか曲名が出てこない。そうだ、あの時のようにアプリで探してみよう……とスマホに入れていた曲名検索アプリを起動させた。スマホに向かって口ずさむ。しかし、3回試すも「結果不明」というメッセージが出て、ちょっとショック。私は音痴だったのか? 曲名がわからないことより、アプリに相手にされなかったことに泣きそうになっていたら、ふいに曲名を思い出した! まるでイルカが波間でジャンプするように“スカボロー……”と飛び出してきたのだ。そうそう、イギリスの民謡でサイモン&ガーファンクルのバージョンが有名な……♪スカボロ・フェアーだった。中国の古い慣習の残る村で、イギリスの哀愁マインド溢れるメロディをハーモニカで吹くというミスマッチになぜか心癒されてしまった。
深圳の貿易会社で働く佳妮(チアニー)は、生き別れになっていた実父が亡くなったとの知らせを受ける。葬儀に参列するため生家を訪ねた佳妮は、実は自分には他に2人の姉と弟がいて、次女と自分が養女に出されていたことを知る。海が望めるのどかな村で家族の温もりを味わいながら、母や姉たちのこれまでの暮らしと、さまざまな思いを知っていく佳妮。しかし、母が佳妮たちを捜した裏には別の理由があったことを知り……。
監督:ポン・ウェイ
出演:シュエ・ウェン チェン・ハオミン ゼン・ユンジェン ヤン・ハンビン ワン・ヤージュン
2023年|中国|98分|配給:アークエンタテインメント
https://natsugakite-fuyugayuku.com/
12月27日(金)全国順次ロードショー
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