今週は、終戦を知らずに2年という長い間、ガジュマルの木の上で生き抜いた日本兵の実話に基づく物語『木の上の軍隊』をご紹介します。終戦直前の沖縄・伊江島。極限の環境に追い込まれた人間の恐怖、強さと脆さ、そしてほんの少しの可笑しみ……。80年前に日本兵2人が実際に登ったガジュマルの木は、命を救った神木として今も伊江島に残っているそうです。

©2025「⽊の上の軍隊」製作委員会
【シネマエッセイ】
7月12日、土曜日。グランフロント大阪9階のテラスガーデンから見上げる空は青く、白い雲とのコントラストが爽やかだ。「2時40分を過ぎた。もうすぐだ」眩しそうに空を眺めてO氏が言う。「どっちから飛んでくるの?」もう一人の友人Kちゃんが、スマホ片手に空を見ながら360度くるくる回っている。この日は、30年来の友人O氏とKと私の3人でランチをすることになり、グランフロント大阪にある和食屋さんに11時半の予約を入れた。「ただし、俺は2時過ぎには大阪城に行ってブルーインパルスの動画を撮るつもり。よかったら2人も行く?」とO氏。たまたまだが、その日は大阪・関西万博で航空自衛隊ブルーインパルスの飛行イベントが予定されていた。4月に悪天候で中止になったが、異例のリベンジ飛行だとか。とりあえず2時に大阪城へ向かうつもりで食事を始めたが、お喋りに熱中し、気がつけば2時半。しまった! もう大阪城での動画撮影には間に合わない。そこでグランフロント9階のテラスガーデンで見ようということになったのだった。ブルーインパルスは、6機編隊で関西国際空港を2時40分に離陸し、通天閣や大阪城、太陽の塔、ひらかたパークなどの上空を飛んでから折り返し、夢洲の万博会場上空でパフォーマンスを披露するという。時間が近づくと、私たちの他にもワラワラと人々が集まってきた。「何時にこの上を飛んでいくんですか?」「どっちから来る?」「きっとすごいスピードですよね」などと、見知らぬ人同士で会話が弾む。2時45分前後だっただろうか? 南側の駅ビルのテラスで鈴なりになっている人達が一斉に東の空に向かって歓声を上げたような気がした。しかし、こちらの位置からは豊かに茂った樹木と高層ビルに遮られ、何も見えない。大阪城から太陽の塔へ向かうのだから、グランフロント東側の空を見なければいけないのに、トンマな私たちは西側で待機してしまっていたのだ。ブルーインパルスの姿は全く確認できず……。たまたまとはいえ、せっかく大阪にいたのに残念……と3人でガックリ肩を落とす。
さて、それからである。ブルーインパルスの華麗な飛行をまんまとカメラに収めた友人たちから続々と動画が届いた。あべのハルカスや大阪城、あるいは郊外のビニールハウスの上空を、真っ白なスモークを引き超高速で飛んでいく6機! 夢洲上空でのパフォーマンスもテレビで見たが、その素晴らしい飛行に何故か胸がいっぱいになる。讃える言葉はただひとつ、カッコイイ! 今、危うい世界状況の中、平和な日本の空で華麗なパフォーマンスに感動していられることに感謝したい。

©2025「⽊の上の軍隊」製作委員会
太平洋戦争末期、戦況が悪化の一途を辿る 1945 年。沖縄県伊江島に米軍が侵攻。激しい攻防戦の末に、島は壊滅的な状況に陥る。沖縄出身の新兵・安慶名セイジュンは少尉・山下一雄と、命からがら大きなガジュマルの樹上に身を潜める。圧倒的な戦力差を目の当たりにした山下は長期戦を覚悟し、援軍が来るまでその場で待機することを決断する。戦闘経験豊富で厳格な上官・山下と、島から出たことがなく戦中でもどこか呑気な新兵・安慶名は、さながら水と油。話も性格も噛み合わず、ぎくしゃくとした関係のなか、2人きりでじっと恐怖と飢えを耐え忍ぶ。やがて戦争は日本の敗戦をもって終結するが、そのことを知る術もない2人の“孤独な戦争”は続いていく……。

©2025「⽊の上の軍隊」製作委員会

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監督・脚本:平 一紘
原作:「木の上の軍隊」(株式会社こまつ座・原案井上ひさし)
出演:堤 真一 山田裕貴 津波竜斗 玉代㔟圭司 尚玄 岸本尚泰 城間やよい 川田広樹(ガレッジセール)ほか
2025年製作/128分/G/日本/配給:ハピネットファントム・スタジオ
https://happinet-phantom.com/kinouenoguntai/
6月13日(金)沖縄先行公開 7月25日(金)全国ロードショー
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