今週は、ありのままに生きたヒゲの女性の勇気ある物語『ロザリー』をご紹介しましょう。人は誰でも何らかのコンプレックスを抱えているとはいえ、この映画の主人公ロザリーのようなヒゲの女性の人生を描いた物語は珍しいのではないでしょうか? モデルとなった実在の女性は、ヒゲを武器にして商売を繁盛させ、さらにヨーロッパツアーを行い、パリやロンドンで大勢の観客を集めたそうです。第76回カンヌ国際映画祭では「ある視点」部門に出品、クィア・パルム賞にノミネートされ話題を呼びました。ありのままに生きた主人公ロザリーの逞しさに圧倒される作品です!

© 2024 – TRÉSOR FILMS – GAUMONT – LAURENT DASSAULT ROND-POINT – ARTÉMIS PRODUCTIONS
~シネマエッセイ~
先日、何気なく朝の情報番組を見ていたら「小学生で脱毛」という話題が取り上げられていて驚いた。小学生でお化粧やネイル……という話はずいぶん前から聞いてはいたが、脱毛も「キッズ脱毛」という広告が出るほど注目されているらしい。見た目が重視されるのは大人だけではない時代なのか。いや、そういえば私も思春期の頃に「毛」に悩んだことを思い出す。というのも、60年代後半から70年代初めにかけて“ホットパンツ”というファッションが流行っていて、女子はみんな太腿丸出しで闊歩していた。“ホットパンツ”とは、いわゆる「短パン」のことで、なぜ“ホット”だったのかを私は知らない。ただ、そのファッションで出かけるときに少々気になることがあった。どうも私の足の毛は人より濃いような気がしたのだ。思春期はホルモンの関係で毛が濃くなることがあるというが、それよりも自意識過剰な「思い込み」のほうが大きかったような気もする。思春期に他人と自分の違いが気になるのは今も昔も変わらないのだろう。その頃は現在のような「永久脱毛」という技術はなかったので、ムダ毛が気になる女子たちは剃刀以外にワックスや除毛クリームなどで処理をしたものだ。そう言えば、洗面所に置いていた私の除毛クリームを、父が歯磨きと間違えて使ったというとんでもない出来事を思い出した。白いクリームが口の中で緑色の泡に変化したことに驚き、朝から大騒ぎしていた父の間抜けっぷりがたいそう可笑しかった。
映画『ロザリー』の主人公は、足のムダ毛どころか、放っておくと口ヒゲや顎ヒゲまでびっしりと生えてくる多毛症の女性である。生れてきたのが100年遅い現在なら永久脱毛で何とかなったのでは……と同情する。しかし、彼女は逞しい精神で人生を切り開いていく。ありのままの自分の姿で人々の注目を集めた自己プロデュースが功を奏して、観ているうちに顎ヒゲがチャーミングに思えてくる。さらに、結末を観客の想像力に任せるようなラストシーンも、ひときわ心に残る物語である。

© 2024 – TRÉSOR FILMS – GAUMONT – LAURENT DASSAULT ROND-POINT – ARTÉMIS PRODUCTIONS

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生まれた時から多毛症に悩まされるロザリーは、その特別な秘密を隠して生きてきた。田舎町でカフェを営むアベルと結婚し、店を手伝うことになった彼女はある考えがひらめく。
「ヒゲを伸ばした姿を見せることで、客が集まるかもしれない」。始めは彼女の行動に反対し嫌悪感を示したアベルだったが、その純粋で真摯な愛に次第に惹かれていく。果たして、ロザリーは本当の自分を愛される幸せと真の自由を見つけられるだろうかー。

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監督・脚本:ステファニー・ディ・ジュースト
出演:ナディア・テレスキウィッツ、ブノワ・マジメル、バンジャマン・ビオレ、ギヨーム・グイ、ギュスタヴ・ケルヴェン、アンナ・ビオレ
2023 年/フランス・ベルギー/115分/配給:クロックワークス
https://klockworx.com/rosalie
5月2日(金)全国公開
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