今週は、本国タイで鑑賞後に号泣する観客の動画がTikTokなどのSNSで拡散され、社会現象となって記録的なヒットに繋がったという『おばあちゃんと僕の約束』をご紹介しましょう。祖母の遺産を狙うという不謹慎ともいえる動機をもとに、家族の愛と摩擦、世代間の価値観や文化の違い、老後の孤独、喪失など、多くの普遍的なテーマが描かれています。古い町並みが残るバンコクの美しい風景の中で繰り広げられる、祖母と孫を中心にした三世代が織りなす家族の物語。6月13日(金)から全国順次公開です。

©2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
【シネマエッセイ】
まだ5月だというのに、このところ30度近くに気温が上がる日が続いた。先日、その暑さにやられてしまったのか、体調を崩しダウンしてしまった私。全く食欲がなくソファでただただ寝そべる私に、同居している93歳の母が「お粥を炊いてあげようか?」と言ってくれた。日本のお粥は淡白で胃に優しい。体調の悪い時などに食べると身体がホッとしているのがわかる。しかし、母の作ってくれるというお粥さえ嬉しい気持ちになれないほど、私は食欲がなかった。結局何も食べないまま翌日には何とか回復したけれど……。さて、そのお粥。優しく淡白な日本のお粥に対して、中国粥はたっぷりとコクがあり、元気な身体で食べるとますます力がみなぎってきそうな味わいだ。中国のお粥は、何故あんなに美味しいのだろう? それに気づいたのは、初めて香港に旅行した時だった。朝ご飯にお粥を食べようと街の食堂に入った。家庭用の1.5倍はある大きなどんぶりにたっぷりと入っているお粥を見て、(お粥ばかり、こんなに食べられるのか)と不安になったのだが、食べ始めると止まらず、結局平らげてしまった。トロトロのお粥には鶏肉が入っていて、それもホロホロと柔らかかった。絶品とはこのことか。淡白な日本のお粥とは全く違った味わいである。
『おばあちゃんと僕の約束』で、主人公のおばあちゃんであるメンジュは線路沿いの屋台で毎朝、お粥を売って生計を立てている。中国系タイ人のメンジュが売っているのは、中華系移民より伝わったとされているお粥で、細かくすり潰した米粒を原型がなくなるまでじっくりと煮込んだもの。ネギやショウガなどのトッピングやお酢・醤油などの調味料を加えて楽しむという。豚肉団子やモツ、卵と一緒に煮込むこともある、タイの朝ごはんの定番らしい。まさに元気がみなぎる中国系のお粥である。朝の4時や5時に起きて細々とそんなお粥を売って蓄えたおばあちゃんのお金を、あわよくば遺産として貰おうと一緒に暮らし始める主人公のエム。果たして彼の計画は成功するのだろうか……。

©2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
【ストーリー】
大学を中退してゲーム実況者を目指す青年エム。従妹のムイが祖父から豪邸を相続したと聞き、自分も楽をして暮らしたいと画策。彼にはお粥を売って生計を立てている一人暮らしの祖母メンジュがおり、ある日、ステージ4のガンに侵されていることが判明。エムはメンジュに近づいて相続を得ようとするが、メンジュと一緒に過ごすうちに、エムの気持ちが次第に変化していく……。

©2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED

©2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
監督・脚本:パット・ブーンニティパット
出演:プッティポン・アッサラッタナクン、ウサー・セームカム 、サンヤー・クナーコン、サリンラット・トーマス、ポンサトーン・ジョンウィラート、トンタワン・タンティウェー
2024年/126分/タイ/配給:アンプラグド
©2024 GDH 559 CO., LTD. ALL RIGHTS RESERVED
https://unpfilm.com/lahnmah/
6.13(金)より新宿ピカデリーほか全国順次公開
【鳥飼美紀のとっておきシネマ】へのメッセージはこちらから!