今週は、海外旅行をしたことのある人なら誰しも覚えがある、緊張の「あの手続き」をテーマにしたスペイン映画をご紹介します。飛行機が空港について入国審査(イミグレーション)のコーナーに行き、列に並ぶ……ちょっとドキドキしますね。何もやましいことなどないのに、言葉が通じない、国民性の違い、いかつい審査官から見た印象などで、何をどのように誤解されるかわかりません。この映画の主人公カップルは、ちゃんとした手続きをしてきたつもりが、なぜか入国審査で引っかかってしまい、どんどん追い詰められていきます。移民政策が厳しくなったアメリカの、今だからこそのリアルなテーマです。

© 2022 ZABRISKIE FILMS SL, BASQUE FILM SERVICES SL, SYGNATIA SL, UPON ENTRY AIE
【シネマエッセイ】
これまで発行してもらったパスポート4冊をすべて保管している。最も古いものは1990年発行で、サイズも今のものより少し大きい。最新のパスポートの有効期限は2026年9月。あと1年で失効である。そういえば2016年に発行されてから現在までの9年間で、海外旅行はハワイへの1回だけだった。コロナ禍のほかに、超高齢の実母との同居や大型犬を飼い始めたことなど、何日も家を空けることができない環境でもあったが、このところの円安も大きな理由となっている。かつて私が海外旅行をしていた頃は1USドル90円台~110円台という、今では夢のようなレートだった。現在は150円台も珍しくない。単純計算で、以前は9,000円で買えたものが今は15,000円もするということなのだ。海外は遠くになりにけり……人生を終えるまでにもう一度海外旅行に行けるかしら? と憂える今日この頃である。さて、その海外旅行で最初に遭遇する緊張が、私の場合は飛行機の離発着だ。臆病かつ想像力たくましい私は、離陸する瞬間に飛行機のお尻が滑走路に衝突するような気がする。着陸する瞬間には、何かの不具合で飛行機の車輪がぶっ飛ぶ想像をしてしまう。そして、結構な衝撃がありながらも何とか着陸すれば、次の緊張である「入国審査」が待っている。これは飛行機の離着陸のドキドキとはまた別の緊張である。簡単な英語で入国の目的を聞かれ、たいていの日本人が慣れない「指紋」を採られ、写真を撮られる。にこやかな審査官もいれば不機嫌な審査官もいて、とにかく悪い印象を持たれないように、こちらはいつも以上に口角をキュッと上げてにこやかに応じる。無事にパスポートにスタンプを押してもらった時の安堵感と解放感たるや! しかし、もし審査官がスタンプを手から離し、こちらを見つめたままパスポートを閉じ「別室に」と口にしたら……。バルセロナからアメリカに移住するためにやって来たカップルが、案内された別室でどんな尋問を受けるのかを描いた映画『入国審査』。恐怖や苛立ち、諦め、屈辱、色々な感情を観る者も味わうことになる77分である。

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移住のために、バルセロナからNYへと降り立った、ディエゴとエレナ。エレナがグリーンカードの抽選で移民ビザに当選、事実婚のパートナーであるディエゴと共に、憧れの新天地で幸せな暮らしを夢見ていた。ところが入国審査で状況は一転。パスポートを確認した職員になぜか別室へと連れて行かれる。「入国の目的は?」密室ではじまる問答無用の尋問。やがて、ある質問をきっかけにエレナはディエゴに疑念を抱き始める―

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監督・脚本:アレハンドロ・ロハス、フアン・セバスチャン・バスケス
出演:アルベルト・アンマン、ブルーナ・クッシ
2023年/スペイン/77分/配給:松竹
https://movies.shochiku.co.jp/uponentry/
8月1日(金)公開
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