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とっておきシネマ

【鳥飼美紀のとっておきシネマ】日本映画『箱の中の羊』

毎年5月はカンヌ国際映画祭が開かれます。先日、今年の受賞結果が発表され、パルムドールはクリスティア・ムンジウ監督の『フィヨルド』に贈られましたね。また、『急に具合が悪くなる』岡本多緒さんが日本人初の女優賞を受賞という快挙もありました。これから来年にかけてカンヌに出品、受賞した作品が次々に公開されていきます。楽しみですね。さて今週のとっておきの1本は、惜しくも受賞が叶わなかったものの、カンヌで話題を呼んだ是枝裕和監督『箱の中の羊』です。

©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

 シネマエッセイ 
ずいぶん前に、まだその頃は別居していた私の母が、わが家の庭にハナミズキの木を植えてくれたことがあった。仕事にかまけて花の1本も咲かせていない殺風景な庭を見かねて、あまり世話のいらないハナミズキを植えて実家に帰って行った。それからは毎年白い花を咲かせて楽しませてくれたが、なぜか私の肩あたりの高さから成長せず低木のまま何年かが過ぎた。ご近所のハナミズキは、どれも見上げるような高さに枝をたくさん伸ばし数多の花を咲かせている。水も肥料も普通に与えていたつもりで、何が悪いのか見当がつかず……。たまたまテラスの工事に来てくれた造園業者さんに相談してみた。「肥料が足りないのかもしれませんね」と、工事の最終日に肥料をまいてくれた。ところが、それからすぐにハナミズキは枯れてしまった。肥料が過ぎたのだろうか。私と同じくおチビちゃんではあったけれど、毎年健気に花を咲かせてくれていたのに……。この季節になると、今でも可哀そうなことをしたと思い出してしまう。

映画『箱の中の羊』は、子を亡くした夫婦が子にそっくりのヒューマノイドを迎え入れるお話。主人公夫婦が建築関係の仕事をしているので“木”に縁があり、庭にはレモンの木が植えられている。それは大切な記念の木なのだ。そしてまた1本、夫婦は記念の木を植えることになる。是枝裕和監督は、木には知性があり、木々が独自のネットワークで繋がっているという「マザーツリー」の考え方から、“木”を映画の重要なモチーフにしたという。森の中の木々が、古い巨木(マザーツリー)を中心に栄養や情報を共有しているということが研究でわかっているらしい。まさに森は生きていて、木々は繋がっている。映画の中では、そんな木々の繋がりのように、ヒューマノイドたちも繋がろうとしている気配が描かれていく。それは、少し怖いような、哀しいような……。映画は、そう遠くない未来のお話。大切な家族を亡くしたことがある人なら、それぞれ思うところがある作品だろう。

©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

 ストーリー 
息子の翔(かける)を亡くして2年、建築家の音々(おとね)と工務店の二代目社長を務める健介の夫婦は、ヒューマノイドを迎え入れることに。息子の姿をした<彼>の帰宅に、喜びを隠さない音々と、戸惑いを隠し切れない健介。 再び家族の時間は動き出し、最新の生成AIで翔として“成長”していく<彼>を、徐々に受け入れていく健介と、在りし日の息子・翔と<彼>の存在のギャップに違和感を覚えていく音々。ほどなく予期せぬ事態が起こり、夫婦がそれぞれに抱く息子の死への想いが露わになる。 そんな中、<彼>は密かにヒューマノイドの仲間たちとつながり始めていた─。

©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

©2026フジテレビジョン・ギャガ・東宝・AOI Pro.

監督・脚本・編集: 是枝裕和
出演:綾瀬はるか 大悟(千鳥)/桒木里夢 清野菜名 寛一郎/ 柊木陽太 角田晃広 野呂佳
代 星野真里 中島歩/ 余貴美子 田中泯
2026年製作/125分/日本/配給:東宝、ギャガ
5月29日(金)公開

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