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【鳥飼美紀のとっておきシネマ】イギリス映画『URCHIN/アーチン』

今週は、第78回カンヌ国際映画祭<ある視点>部門で、最優秀男優賞&国際映画批評家連盟賞 W受賞の『URCHIN/アーチン』をご紹介します。俳優ハリス・ディキンソンの長編監督デビュー作だそうです。彼は「人は、誰しも自分の弱い部分へと引き戻されてしまうことがある」ということを描きたかったそうです。その思いが伝わってくる作品。さらに、若い監督らしく、突然映し出される思いもよらない表現方法が魅力的でもありますよ。

©Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025

 シネマエッセイ 
この秋からの朝ドラ『ブラッサム』は、作家の宇野千代さんをモデルにした物語。小説や随筆を書き、雑誌の編集もし、着物のデザイナーでもあった宇野さんは、恋多き女性でもあった。98歳で亡くなった彼女の波乱に富んだ人生が、これから来春にかけてどのように描かれるのか楽しみである。ところで、宇野千代さんの父親は生涯生業に就かず、実家からの仕送り頼みの家計にもかかわらず、馬を飼い、博打や道楽で放蕩を極めたという。私は宇野さんの書かれたものを読んだことがないので、そのことは朝ドラのエピソードで初めて知った。確かに、ドラマで渡部篤郎さん演じる父親は、自分勝手で理不尽で、めちゃくちゃ怖い。まずもって働かないというのが信じられないが、そんな風でありながら家の中で堂々と君臨して妻や子どもたちを支配していることが、さらに信じられない。しかし、渡部さん演じる父親のふと見せる表情や背中に、本人にもどうしようもない何かが身体の中に棲んでいる気配を感じる。本当はそんな自分に一番苛立っているのは彼自身なのではないか……。今朝の放送で、彼は「死にたくない」と言いながら亡くなってしまったのだが、それは「このままでは死にたくない」ということだったのではないか。もしかしたら、事業なり何なりをしてお金を稼ぎ、家族から(恐れられるのではなく)尊敬され、まだまだ長く人生を謳歌したかったのではないかと、私は勝手に想像してしまう。そうならなかったのは誰のせいでもない、弱い自分を克服できなかった彼自身の責任なのに、妙に同情してしまう。誰しも理想の人生というのはあるが、それを叶えるためには努力や忍耐は避けられない。想うだけでは何も変わらないのだ。

映画『URCHIN/アーチン』の主人公、マイクは社会の“はみ出し者”(URCHIN)だが、刑に服した後、確かに再出発をしようとする。だが、彼も弱い自分に打ち勝てず、誘惑に惑わされ、このままで終わりたくないのに同じような過ちを繰り返してしまうのだ。社会は、マイクをはじめそういう人たちに、十分とはいえないかもしれないが援助の手を差し伸べている。しかし、その手をしっかり握り、這い上がることができるのは自分しだいなのだ。社会の冷たさや制度を責めているだけではないこの映画に私は共感する。人は、誰しも自分の弱い部分へと引き戻されてしまうことがある……私自身にも当てはまるその言葉に、ハリス・ディキンソン監督の優しさを感じる。人間って……強い人ばかりじゃないから。

©Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025

©Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025

 ストーリー 
ロンドンの路上で寝泊まりを続けるマイク。彼は道ゆく人に小銭をせびり、開店前のレストランで携帯を充電し、公園の炊き出しに並ぶ。そして、日が陰るとひとけのない場所に段ボールを並べ、その上にシートを敷いて体を横たえ・・・。こんな暮らしを5年以上も続けている。そんなある日、親切にしてくれた男性から衝動的に金品を強奪し、逮捕されてしまう。出所後は再起を誓うものの、順調にいきかけた暮しはふとした拍子に脆く崩れていく。彼を待つのは破滅か、それとも・・・!?

©Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025

©Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025

©Dream Space Films Ltd/British Broadcasting Corporation/The British Film Institute 2025

監督・脚本:ハリス・ディキンソン
出演:フランク・ディレイン、メーガン・ノーサム、ハリス・ディキンソン
2025年/イギリス/英語/99分/PG12
配給:スターキャットアルバトロス・フィルム
https://cinema.starcat.co.jp/urchin/
10月23日(金)全国公開


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