毎週金曜日の夜9時からおおくりしている「とっておきシネマ」、鳥飼美紀です。
今週ご紹介した作品は、山内マリコ原作、岨手(そで)由貴子監督のシスターフッドムービー『あのこは貴族』です。
“シスターフッド”とは、女性同士の連帯を意味する言葉だそうですよ。
都会の異なる環境を生きる二人の女性が、恋愛や結婚だけではない人生を切り拓く姿を描く、後味のいい物語です。
【STORY】
東京に生まれ、箱入り娘として何不自由なく成長し、「結婚=幸せ」と信じて疑わない華子。
20代後半になり、結婚を考えていた恋人に振られ、初めて人生の岐路に立たされる。
あらゆる手立てを使い、お相手探しに奔走した結果、ハンサムで良家の生まれである弁護士・幸一郎と出会う。
幸一郎との結婚が決まり、順風満帆に思えたのだが…。
一方、地方に生まれ、猛勉強の末に名門大学に入学し上京したが、学費が続かず中退した美紀。
現在の仕事にやりがいを感じているわけでもなく、都会にしがみつく意味を見いだせずにいた。
大学時代の同期生である幸一郎との関わりで、同じ東京で暮らしながら別世界に生きる華子と出会う。
華子と美紀、二人の人生が交錯した時、それぞれに思いもよらない世界が拓けていく―。
【REVIEW】
舞台となるのは東京。
ヒロインは上流階級の娘華子。
彼女は派手な服装はしないが、持っているバッグはバーキン、自宅は松濤という良家の子女。
一方、もう一人のヒロイン美紀は、猛勉強して名門大学に入ったものの、経済的な事情で中退した「上京組」のOL。
境遇の全く違う二人のヒロインを通して見えてくるそれぞれの「東京」の姿が、興味深い。
華子の親友、ヴァイオリニストの逸子が語る言葉が印象的だ。
「東京は棲み分けされているから、違う階層の人とは出会わないことになっている」。
ところが、その逸子が階層の違う華子と美紀を引き合わせることになる。
それからの展開で心動かされたのは、女性同士の関係性である。
女性同士だから認め合えること、分かち合えるものがあり、男性を巡って対立などしない。
だからと言って共通の敵が男性という描かれ方もしていない。
そんな、今までの作品では感じられなかった清々しさやしなやかさが、この作品の大きな魅力となっている。
また、上流階級の日常が説得力を持って描かれているのは、監督と製作チームのきめ細かいリサーチ力によるもの。
富裕層の話を聞くのはもちろん、取材場所には早めに出向き、その人物の入店の仕方から挨拶や注文時の振る舞いなど、何気ない仕草を観察したそうだ。
そんな、庶民にはわからない上流社会の描かれ方も見どころのひとつとなっている。
主人公の箱入り娘・華子にはNHK大河ドラマ「麒麟がくる」で駒役を好演した門脇麦。
そして、地方から上京し自力で生きる美紀役に、女優、モデル、デザイナーと多彩に活躍する水原希子。
二人を繋ぐ弁護士・幸一郎役に高良健吾、華子の親友役に石橋静河、美紀の友人役に山下リオと若手実力派俳優が集結した。
一人の男性を巡って、上流のお嬢様と庶民の女性という設定なら、三角関係の果てにどちらかが勝つ(たいていは庶民が勝つ)という展開になりがちだ。
しかし、この作品は全く違う。どのように展開し、どのような結末になるのかは見てのお楽しみ。
ただ言えるのは、清々しい気持ちで劇場を出られる!ということである。
『あのこは貴族』
原作:山内マリコ「あのこは貴族」集英社文庫
監督・脚本:岨手由貴子
出演:門脇麦 水原希子 高良健吾 石橋静河 山下リオ ほか
2021年 日本 124分 配給:東京テアトル/バンダイナムコアーツ
https://anokohakizoku-movie.com/
2月26日(金)から、テアトル梅田 シネ・リーブル神戸などで公開中。
各劇場のホームページ等で新型コロナ感染防止対策を確認の上、どうぞ無理のない範囲でご観賞ください。
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