金曜の夜9時からおおくりしている、最新シネマ情報番組「とっておきシネマ」の鳥飼美紀です。
今週ご紹介した映画は、8月25日(金)公開、ヴィッキー・クリープス主演の『エリザベート 1878』です。
ヴィッキー・クリープスは、派手さはありませんが、顔の表情だけで「すべてを語る」ような演技が、彼女の個性&魅力になっている女優さんですよね。
フランス語、ドイツ語、英語を流暢に話し、この作品ではハンガリー語も披露していて、昨年のカンヌ国際映画祭「ある視点」部門の最優秀演技賞を受賞しました。
マリー・クロイツァー監督が、伝説的皇妃のイメージを史実に捉われず大胆に覆した演出で、これまで描かれることのなかったエリザベートの素顔に迫っています。
それは新鮮であり、観る者に親近感をもたらしてくれるでしょう。
【STORY】
ヨーロッパ宮廷一の美貌と謳われたオーストリア皇妃エリザベート。
1877年のクリスマス・イヴに40歳の誕生日を迎えた彼女は、厳格で形式的な公務にますます窮屈さを覚えていく。
人生に対する情熱や知識への渇望、若き日々のような刺激を求めて、イングランドやバイエルンを旅し、かつての恋人や古い友人を訪ねる。
そして、誇張された自身のイメージに反抗し、プライドを取り戻すためにある計画を思いつく——。
【REVIEW】
日本でも宝塚歌劇や東宝ミュージカルで親しまれている「エリザベート」。
彼女が16歳の時に、姉とお見合いをしたオーストリアの皇帝フランツ・ヨーゼフに見初められ、結婚する。
皇帝が、姉を差し置いて結婚したい……と思うほど、エリザベートは美しかったのだ。
ドイツの画家ヴィンターハルターの描いたエリザベートの有名な肖像画は、確かにため息が出るほど美しい。
しかし、彼女の自由奔放な性格はヨーロッパ随一の伝統と格式を誇るウィーン宮廷での生活と合わず、次第にウィーンを離れて流浪の旅を繰り返すようになる。
そして1898年、スイスで無政府主義者によって暗殺され、60年の生涯を終える。
そのエリザベートが40歳を迎えた1年間に焦点を当てた作品。
私の中では、昨年秋に公開された「スペンサー・ダイアナの決意」と重なる。
宮廷生活にすんなり馴染める女性もいる中、ダイアナやエリザベートは適材適所ではない運命に飲み込まれたが故の、辛い人生を生きたといえる。
原題は「CORSAGE」で、女性のコルセットのこと。
コルセットをきつくきつく締めるシーンが何度も出てくる。
あの時代の女性は、男性の傍で賢く、行儀よく、出しゃばりすぎず、政治にも口を出さずに美しさを振りまくことを求められた。
自由や意思を持たないことが、コルセットに締め付けられた小さなウエストに象徴されている。
身長172cm、体重45kg~50kg、ウエスト50cmの体型を維持していたというエリザベート。
常に国民から讃えられる美しさを保つために、当時のあらゆるダイエットや美容に励み、そのストレスは相当のものだっただろう。
この映画の宣伝用写真の中には、煙草を片手に、もう片方の手の中指を立てて「お飾りなんかじゃない」というコピーがついているものがある。
現代的なその反抗的しぐさに「やる気満々じゃない?」と感じるが、それがどういうことなのかはラストのお楽しみである。
また、流れる音楽も斬新で、聴きどころとなっている。
フランスの人気シンガー、カミーユが音楽を担当し、彼女の曲やソープ&スキン、ザ・ローリング・ストーンズの「As Tears Go By」をカバーした曲などが流れる。
特に、女性シンガーたちの歌声はエリザベートの内面を代弁するような響きに満ち、一層切なさをもたらす効果をあげている……ということで、音楽もいい!
ぜひ劇場で、新たなエリザベートに出会ってほしい。
監督:マリー・クロイツァー
主演:ヴィッキー・クリープス フロリアン・タイヒトマイスター カタリーナ・ローレンツ
2022年/オーストリア、ルクセンブルク、ドイツ、フランス/114分/配給:トランスフォーマー、ミモザフィルムズ
https://transformer.co.jp/m/corsage/
8月25日(金)~全国順次ロードショー
関西では、大阪ステーションシティシネマ TOHOシネマズ西宮OS シネ・リーブル神戸、また宝塚シネ・ピピアは9月22日(金)から