今週は、わたくし鳥飼がこの秋にイチオシする映画『八犬伝』をご紹介します。ファンタジーの虚構の世界とリアルな現実の世界が交錯する、前代未聞のエンターテインメント⼤作です。公開は少し先、10月25日（金）からですが、待ちきれません！ わが街三田のイオンシネマウッディタウンでも上映されますよ！
～シネマエッセイ～
生まれて間もない頃から私の生活の中には犬がいた。まだ1歳にならない頃の写真では、「ロク」という自分より大きな雑種の犬を抱えている。ロクは親戚の飼い犬だったが、私が小学生の頃から、わが家では犬を飼い始めた。現在飼っているイエローのラブラドールで5匹目になる。両親が共働きだったので、学校から帰ると犬が迎えてくれ、犬が話し相手になり、風邪をひいて寝込むと犬が足元で添い寝をしてくれる……そんな子供時代だった。犬の良さは、何といってもコミュニケーション力の高さだろう。言葉は喋れなくても、人間の感情を素早く察知し、時に寄り添い、時に甘え、自分の要求もストレートに表現する。仔犬の時に教えたことは生涯忘れない……というわけで、私は鳥飼という名字だが、できることなら犬飼と改名したいくらいの犬好きなのである。
映画『八犬伝』に出てくる8人の剣士には、犬川、犬坂、犬飼、犬村、犬田、犬江、犬山と、それぞれ名字に「犬」という文字が入っている。由緒正しい武家の里見家にかけられた呪いを解くために集まった剣士たちだ。そもそも、人間の言葉を理解する「八房」という犬に、里見家の領主がとんでもない約束をしたことが発端となる物語で、室町時代を舞台にそんなファンタジーを創作したのが江戸時代の作家・滝沢馬琴である。馬琴が創造する虚構の世界と、馬琴が生きる現実の世界が交互に描かれ、私たち観客は振り子のように２つの世界を行き来する。テーマは「正義」。正しく生きる者が幸せになり、正義は必ず報われると信じる馬琴の姿は、誰の心にも響くはず。そして、虚構の世界である「八犬伝」の物語の中では、旬の若手俳優たちの躍動感あふれる演技でワクワクさせられ、現実の「馬琴」の世界では、実力派俳優たちの秀逸な演技で深い感動を味わう……という、とても贅沢な作品なのだ。さらに馬琴と鶴屋南北の勝負のつかない問答シーン、雨の中で絶望に崩れ落ちる馬琴の痛ましい姿、絶命寸前に残した妻の一言の意味……などが、今も私の心を捉えて離さない。そんな魅力的なシーンがありすぎて、「１つの作品にこんなに詰め込んで、もったいなくないですか？」と思ってしまう。この秋、たっぷりな満足感を与えてくれるエンターテインメント作品である。
江戸時代の人気作家・滝沢馬琴は、友人の絵師・葛飾北斎に、構想中の物語「八犬伝」を語り始める。里見家にかけられた呪いを解くため、八つの珠を持つ八人の剣士が、運命に導かれるように集結し、壮絶な戦いに挑むという壮大にして奇怪な物語だ。北斎はたちまち夢中になる。そして、続きが気になり、度々訪れては馬琴の創作の刺激となる下絵を描いた。
北斎も魅了した物語は人気を集め、異例の長期連載へと突入していくが、クライマックスに差しかかった時、馬琴は失明してしまう。完成が絶望的な中、義理の娘から「手伝わせてほしい」と申し出を受ける──。失明してもなお28年の歳月をかけて書き続けた馬琴が「八犬伝」に込めた想いとはー。
監督・脚本：曽利⽂彦
原作：山田風太郎『八犬伝 上・下』（角川文庫）
出演：役所広司 内野聖陽 ⼟屋太鳳 / 渡邊圭 鈴⽊ 仁 板垣李光⼈ ⽔上恒司 松岡広⼤ 佳久 創 藤岡真威⼈ 上杉柊平 河合優実 ⼩⽊茂光 丸⼭智⼰ 真⾶ 聖 忍成修吾 塩野瑛久 神尾 佑 / 栗⼭千明 中村獅童 尾上右近 磯村勇⽃ ⼤貫勇輔 ⽴川談春 ⿊⽊ 華 寺島しのぶ
2024年製作／149分／日本／配給：キノフィルムズ
©2024 『⼋⽝伝』FILM PARTNERS.
公式サイト https://www.hakkenden.jp/
10月25日（金）全国ロードショー
