米メジャーリーグのワールドシリーズは、大谷翔平選手&山本由伸投手が所属するドジャースが制覇しましたね。プロ野球世界最高峰のメジャーリーグでの優勝ということは、世界のトップということだそうです。今週ご紹介する映画は、世界最高峰のバレエ団の一つであるパリ・オペラ座バレエ団のエトワール(最高位のスター)を夢見る少女の物語『ネネ ーエトワールに憧れてー』という作品です。11月8日(金)公開。
~シネマエッセイ~
少女時代、舞台女優に憧れていた。小学校の学芸会で「走れメロス」を演じ、舞台に立つ快感を覚えたからだろうか。15歳の頃、無謀にも東京の大手劇団のオーディションを受けたことがある。書類審査に合格し面接試験の通知が届いたので家族に相談すると、心配性の父が「子どもが一人で東京に行くのは危険だ」と同伴してくれることになった。秋のある朝、父と二人で新幹線に乗り上京、在来線で千駄ヶ谷だったか代々木だったか記憶は定かではないが、大きな会場でオーディションに臨んだ。その日のうちに合否が発表されたが、それまで何の訓練も受けて来なかった私が合格するはずもなく、父親と二人で会場を出て無言で駅まで歩いた。帰りの新幹線に乗る前に、有楽町あたりの路地にある小さな食堂でうどんを食べたのだが、関東の真っ黒な出汁に驚いたことを鮮明に憶えている。思い出は、小さな挫折と黒いうどん出汁がセットになっているのだ。
フランス映画『ネネ ーエトワールに憧れてー』の主人公ネネも、父親に伴われてある試験会場にやって来る。パリ・オペラ座バレエ学校の入学試験会場である。ネネは12歳の黒人少女。アフロヘアにイヤホンで音楽を聴きながら自信たっぷり。裕福な家庭で育ちバレエコンクールで入賞歴のある白人少女たちとネネは競い、合格発表では見事トップに名前が書かれる。しかし、ネネの合格には反対する学校関係者が少なからずいた。理由は彼女が黒人だからだ。トップ入学したものの、「バレエは白人のもの」と言って憚らない校長や、差別やいじめを行うクラスメートたちに真正面から立ち向かうネネ。そんなネネの最大の理解者は優しい父親である。入学試験の付き添いだけではなく、特別授業の費用を工面し車での送迎を引き受け、ネネが不祥事を起こしても絶対に彼女を信じてくれる……。ネネの父は「怒りは爆発させず、抑えること」と娘に諭す。そして「逃げてはダメ」と励ます。多様性がテーマのこの作品だが、個人的にはこの父親に自分の亡父を重ねて、父と娘の絆に胸が熱くなってくる。
物語は実話ではないが、実際にパリ・オペラ座バレエ団のエトワールであるレオノール・ボラックが舞台で踊るシーンがある。周囲が静まり返るような素晴らしいエトワールのバレエを堪能できただけに、主人公ネネのバレエシーンが物足りなかったと思うのは欲張りすぎだろうか……。
パリ郊外の団地で育った労働者階級の 12 歳の黒人少女ネネ。何よりもダンスが大好きで、彼女のダンスには人を惹きつける“華”があった。ネネはパリ・オペラ座バレエ学校の入学試験に見事合格、毎日時間をかけて髪をシニヨンにまとめ、熱心にレッスンに励み、才能を花開かせていく。だがネネが憧れている、パリ・オペラ座の最高位“エトワール”だった校長マリアンヌは伝統を守ることに固執し、「バレエは白人のもの」とネネを邪険に扱う。またネネを羨み、妬む同級生たちの嫌がらせも始まる。このままバレエを続けるか苦悩するネネ…そんな最中、マリアンヌの隠された秘密が明らかになる――。
監督:ラムジ・ベン・スリマン
出演:オウミ・ブルーニ・ギャレル マイウェン アイサ・マイガ スティーヴ・ティアンチュー セドリック・カーン アレクサンドル・スタイガー リチャード・サメル ナタリー・リチャード
2022年製作/97分/フランス/配給:イオンエンターテイメント
https://neneh-cinema.com/
11月8日(金)から全国公開
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