今週のとっておきの1本は、限りある人生を最高の輝きに変えた二人の物語『We Live in Time この時を生きて』をご紹介しましょう。私たちはみんな〈限りある時間〉を生きています。限られているからこそ、かけがえのない一瞬一瞬を大切な人と分かち合いたいと思わせてくれる、宝もののような物語。ユーモアもたっぷり織り込まれていて、何があっても前向きに生きようという力を与えてくれる作品です。

© 2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION
【シネマエッセイ】
生きていれば、ツイてないと落ち込んだり、「クソッ!」(失礼)と舌打ちしたくなる些細なことは多々ある。たとえば……今日は絶対に遅刻できないという日。朝から完璧に家事を終えて身支度を整え、いつもより2本も早い電車に乗るべく駅に着いたのに、電光掲示板に「運転見合わせ」の文字が流れている。心の中で(なるほど、そうきたか……)と冷ややかに神に悪態をつく。たとえば……体重40キロの大型犬を連れての散歩。すれ違う他の犬に我が愛犬が吠えつき、引きずられた揚句にサツキの植え込みにぶっ倒された(失礼)時。地面に散らばるサンバイザーとおやつとウンチ袋を呆然と眺めながら「何で?」と愛犬に無駄に問いかけたりして……。
映画『We Live in Time この時を生きて』の主人公の一人、トビアスはもっと凄いツキのなさに見舞われる。離婚が決定する、企業の面接で上手く答えられない、ボールペンのインクが切れたのでコンビニに買いに行ったら、車に轢かれた⁉……と。しかし、それがきっかけで彼の人生は大きく変わるのだ。自分とは全く違うタイプの女性アルムートと出会い、愛を育み、家族となる。その先に悲しいことが起こるけれど、それはけっして不幸ではない。限りある時間の中で、全力で“あること”に挑戦するアルムートを支える道を選ぶトビアス。内省的で繊細で物静かなトビアスは気弱に見えるが、実は芯にとても強いものを隠し持っている。才能に恵まれ努力を重ねて目標に挑むパートナーを輝かせる彼の瞳の優しさを、私は忘れることができない。強さと優しさはけっして矛盾しない。

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新進気鋭の一流シェフであるアルムートと、離婚して失意のどん底にいたトビアス。何の接点もなかった二人が、あり得ない出会いを果たして恋におちる。自由奔放なアルムートと慎重派のトビアスは何度も危機を迎えながらも、一緒に暮らし娘が生まれ家族になる。そんな中、アルムートの余命がわずかだと知った二人が選んだ型破りな挑戦とは──。

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監督:ジョン・クローリー(『ブルックリン』)
出演:フローレンス・ピュー、アンドリュー・ガーフィールド
2024 年|フランス・イギリス|英語|108分|配給:キノフィルムズ
公式サイト:https://www.wlit.jp
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6 月6日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
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