先週に引き続き、今週もちょっと緊張感ある作品をご紹介しましょう。パンデミックによってロックダウン状態となったニューメキシコの小さな町〈エディントン〉が舞台。描かれるのは悪い冗談か? 過激な警告か? それとも包み隠さず描かれた現代の闇の縮図か?常に世界をザワつかせるアリ・アスター監督の炎上スリラー『エディントンへようこそ』。

© 2025 Joe Cross For Mayor Rights LLC. All Rights Reserved.
シネマエッセイ
冬が近づくにつれ、インフルエンザが大流行となっているらしい。病院にいく時だけでなく、外出する際にはマスクをバッグに入れておかなければと、マスクの在庫を調べてみた。我が家のプラスチック製マスク籠にはプレーンな白い不織布マスクはほとんどなく、色付きのものや冷感のもの、ライブで配布されたもののサイズが大きくて使えないものなどが残っている。そして底の方に手作りの布製のマスクが8枚ほど押し込まれていた。そうそう新型コロナウィルス感染拡大のニュース報道がされてからは、ドラッグストアからマスクが消え去り、布製の手作りマスクを何度も洗って使ったものだ。とはいえ、私はお針仕事が苦手。8枚の手作りマスクは、見かねた友人たちが作って送ってくれたものだ。あつかましくも、こちらからお気に入りの手ぬぐいを送って縫ってもらったものもある。器用で優しい友人たちにあらためて感謝したい。かつて2009年に流行した新型インフルエンザの時、私は一切マスクをしなかった。他の人がマスクをしてくれているから、逆に私はしなくても安全と高を括っていた。そんないい加減な私だが、コロナ禍では本当に感染が怖く、必ずマスクをして出かけた。幸いなことに私が感染することなくパンデミックは収束し、この夏から病院以外ではマスクを意識してこなかったが、友人の中にはいまだにずっとマスクをしている人がいる。医療従事者でも介護職でもない彼女は、今年の猛暑の中でもマスクをしていた。「何でマスクしてるの? 暑くないの?」と尋ねると「何だかわからないけど、もう外せない」と言う。おそらく顔を隠していることに安心感があるのだろう。それはそうかもしれない。口元を隠していると気を抜くことができる。口角が下がって老け顔になっていても誰にもわからない。カラーマスクはファッションの一部にもなる。さらに、これからの冬は文句なく暖かい。コロナ禍以来、そんなマスクの心地よさに、マスクを手放せない人が多いのかもしれない。
映画『エディントンへようこそ』では、主人公の保安官と市長が《マスクをする、しない》で対立し、そのエスカレート具合は尋常ではなくなっていく。保安官はマスクをしない派。そんなことから、キリキリしない鷹揚な保安官に見えたが、何かがきっかけとなってタガが外れてしまう。物語の後半はこれでもかというほど恐ろしいシーンが続く。それでも見続けられたのは、分断や対立、SNS炎上、陰謀論などが描かれた強烈な風刺映画となっているからだ。世界を襲ったあのパンデミックがもたらしたものは、いったい何だったのだろう?

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パンデミックでロックダウン状態となったニューメキシコのエディントン。保安官のジョーは、IT 企業誘致で町を救おうとする野心家の市長テッドと“マスクをする/しない”で対立し、ついには自ら次の市長選に立候補することを宣言する。 自身の正義を大声で主張するジョーとテッドの対立は激化し、その炎は町の各所に引火。住民たちは SNS を通じて肥大化しながら拡散していくフェイクニュースと憎悪と噂話に煽られて炎上を繰り返す。一方、ジョーの妻はネット動画の陰謀論にハマって夫婦関係は危険水域に突入。自分だけは正しい、自分以外は間違っている。そんな批判と対立と憶測と揚げ足取りの応酬はやがて、取り返しのつかない暴力と崩壊の連鎖につながっていく。

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監督・脚本:アリ・アスター
出演:ホアキン・フェニックス、ペドロ・パスカル、エマ・ストーン、オースティン・バトラー
2025年製作/アメリカ/PG12/148分
配給:ハピネットファントム・スタジオ
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https://a24jp.com/films/eddington/
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