【鳥飼美紀のとっておきシネマ】ドキュメンタリー映画『チャップリン』

2025.12.12

今週のとっておきの１本は、誰もがその名を知っている、世界三大喜劇王のひとり、そして映画の神様とも言われるチャーリー（チャールズ）・チャップリンのルーツに迫るドキュメンタリーです。チャップリンの業績や素晴らしい作品は知っていても、彼の素顔や家族、そのルーツについて、私は初めて知ることが多く、とても興味深い作品だと思います。関西では、１２月２６日（金）から上映されます。

シネマエッセイ

冬至とは二十四節気の一つで、1年で最も昼が短くなる日。残り1枚となった壁掛けカレンダーを見れば、冬至は12月22日となっている。カボチャを炊いて、ゆず湯に入る……あぁ、今年も間もなく終わりを迎えるのかと感慨深い。おっと、日が暮れるのが最も早くなる頃だから、愛犬との散歩の時間も早くなるのだった。12月5日の夕方4時過ぎ、愛犬のケイスケと散歩に出た。体重40キロのケイスケは他の犬を見つけると、嬉しくても怖くても吠える。ただ吠えるだけではなく力いっぱいに飛びついていくので、私はこれまで何度も転倒させられた。という訳で、他のワンちゃんたちに遭遇しないように散歩道を選びつつ45分ほどを歩く。その日は運動公園の池の周りから住宅街のある高台に出て、バス通りを目指していた。すると高台の展望スペースの地面に2～3個のスポーツバッグが無造作に置かれている。中学生だろうか、野球のユニフォームを着た3人の少年がすぐそばの木々の間から東の方向を見ている。「何を見ている？」と彼らの視線の先を追うと、大きな真ん丸い月が山際にぽっかり浮いていた。見事に真ん丸である。私も（わ、綺麗～）と思わず立ち止まった。一人で見るには勿体ないような美しい月を、ほんのわずかの時間だが野球少年たちと共有した。後でわかったことだが、その日の月はコールドムーン（寒月）と称される今年最後の満月だったのだ。私はケイスケが異物を口に入れないように、ずっと下を向いて歩いていたから満月に気がつかなかった。そういえば、映画の神様チャーリー・チャップリンの名言の中に「下を向いていたら虹を見つけられないよ」というのがあったことを思い出す。野球少年たちはきっと顔を上げて歩いていたのだろう。だから木々の間から垣間見える真ん丸お月さまに、３人のうち誰かが気がついたのだ。日常でも人生でも下を向いていては、美しい虹も大きな真ん丸い月も見つけることができないな～とあらためて思いながらバス通りに出た。すると、その場所で待ち合わせていた夫が、真ん丸お月さまに見とれて佇んでいた。夫も下を向いていなかったようだ。ケイスケは、嬉しそうに吠えながら夫に飛びついていった。

ストーリー

20世紀最大の映画スター、チャーリー・チャップリン。ドタバタ喜劇に庶民の哀愁や社会風刺を巧みに組み込んだユーモア溢れる作品を多く生み出し、没後 48 年を迎える現在に至るまで、世界中の人々を魅了してきた。チャップリンといえば、ちょび髭を生やし、だぶだぶのズボンと大きなドタ靴、ステッキに山高帽のスタイルでお馴染みの“放浪紳士”。映画出演２作目『メイベルのおかしな災難』（1914）で誕生し、以降およそ四半世紀にわたり数々の作品で演じてきたそのキャラクターは、笑いの中にさみしさや孤独を抱え、社会のなかで弱い立場の人に寄り添う心優しい人物像で愛されてきた。そんな映画史上最も有名なキャラクターこと放浪紳士に垣間みえるのは、ロマのアイデンティティ。本作では、チャップリンがロマの血を 1/8 引き、そのことを誇りに思っていたことが明かされる。息子マイケル・チャップリンは父チャーリーのルーツを探るべく、ゆかりのある人物や場所を追い求めて世界各地に赴く。極貧の少年時代からアメリカを追放されスイスで過ごした晩年まで、映画の神様チャップリンの本質に迫る一作。