今週は、世界で最も売れたジャズ・ソロ・アルバム「ザ・ケルン・コンサート」誕生の裏にあったドラマチックな物語をご紹介しましょう。主人公は、当然コンサートでピアノを演奏したキース・ジャレット……かと思いきや、実はそうではありません。その公演を企画したわずか18歳の女子高校生が主人公! 映画の中で何とかコンサートを成功させようと走りに走る彼女の姿は、真っ直ぐなエネルギーに満ち溢れ、70年代という懐かしい時代の匂いまで伝わるような魅力的な作品となっています。

© Wolfgang Ennenbach / One Two Films
シネマエッセイ
まもなく“高槻ジャズストリート”の季節がやってくる。毎年ゴールデンウィークに開催されている音楽イベントで、「高槻を音楽が溢れる街にしよう」と1999年に始まり、今年で28回目。すべての会場が入場無料という日本最大級手づくり音楽イベントらしい。私は小中高時代を高槻で過ごしたので、とても誇らしいイベントだと思っていて、何回かジャズストリートを訪れたことがある。JR高槻駅と阪急高槻市駅界隈の、喫茶店やら、バーやら、教会やら、文化ホールやら、公園やら、ありとあらゆる空間からジャズが流れてくる。そして驚くほどの数の人々が、集ったり、街ブラしたりして思い思いに音楽を楽しむのだ。すべてボランティアで運営しているということがなお素晴らしい。私がこの“高槻ジャズストリート”を知ったきっかけは、ジャズピアニストの岸ミツアキさんとの出会いにある。かれこれ20年以上経つのではないだろうか。当時ジャズというものをまともに聴いたことのなかった私が、知人から「応援しているジャズマンが出演するから」と神戸のジャズイベントに誘われた。そのジャズマンというのが、親しみのある関西弁でのMCが好もしいピアニスト、岸ミツアキさんだった。演奏後に購入したアルバムにサインをしながら「5月の高槻ジャズストリートに出るから、是非!」と言われ、はじめてジャズストリートを知ったのだった。育った街での音楽イベントを、懐かしい場所を廻りながら楽しませてもらった。それからは大阪のライブハウスでの岸さんのコンサートに何度も通い、心地よいピアノの音色に浸ったものだ。しかし、最近は歳のせいか夜の外出から遠ざかっていて、ライブをチェックすることもなくなっていた。ふと、今年も岸ミツアキさんは出演されるのかしらと“高槻ジャズストリート”の公式サイトを覗いてみる。あの頃から比べると、演奏会場も参加バンドもずいぶん増えていて驚く。そして、岸さんの名前を見つけた。「高槻ジャズストリートを象徴する不動のピアニスト」と紹介されていて、活躍がずっと続いていることを確認した。久しぶりにジャズを、岸さんのピアノを、あの関西弁を聴きたくなってしまった……。
さて、映画の話である。1975年1月24日。ドイツのケルン歌劇場で、のちに伝説と呼ばれることになるコンサートが開催された。アメリカ出身の有名なジャズピアニストのキース・ジャレットが、ソロでピアノの即興演奏をしたのだ。その音源は後に『ザ・ケルン・コンサート』として発売され、世界的ベストセラーとなる。その舞台裏をドラマチックに映画化したのが『1975年のケルン・コンサート』である。当時18歳の女の子がプロモーターとなってコンサートを仕切ったことに目を見張る。こんなにもパワフルな青春……あっぱれである!

© Wolfgang Ennenbach / One Two Films

© Wolfgang Ennenbach / One Two Films
ドイツ・ケルンに住む高校生のヴェラ。音楽好きでナイト・クラビングも大好き。厳格な歯科医の父親への反抗心もあり、ふとしたきっかけで来独ミュージシャンのツアーをブッキングするバイトを始めることになる。仲間たちの協力を得ながら、持ち前のバイタリティを発揮して仕事が軌道に乗り始めたる。ベルリンのジャズ・フェスティバルに出向いた彼女は、アメリカの天才ピアニスト キース・ジャレットの演奏を聴き、雷に打たれるほどの衝撃を受け、キースのケルン公演の開催を決意する。いくつもの困難を乗り越えて当日を迎えるが、オーダーしたのとは違うピアノが手違いで届き、キースは演奏を拒否。開演時間が迫りくる中、ヴェラは…。

© Wolfgang Ennenbach / One Two Films

© Wolfgang Ennenbach / One Two Films
監督・脚本:イド・フルーク
出演:マラ・エムデ、ジョン・マガロ、マイケル・チャーナス 、アレクサンダー・シェアー 、ウルリッヒ・トゥクール、ヨルディス・トリーベル
2025 年/ドイツ、ポーランド、ベルギー/116分 /配給:ザジフィルムズ
https://www.zaziefilms.com/koln75/
4月10日(金)全国順次公開
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